「新テニ」理想のペア、Exciting situation
第3章 金座駅までの誘惑とドギマギ
木手の視線に気付いた濡烏はニヤッと笑います。
ラーメン屋の入口に入ろうとしていた丸井でしたが、
『では、なぜ、オレはあなたが何かを買おうとする度に阻止するのか、よく考えてください』
と、万川駅で木手が言っていたことを思い出し、踵を返します。
「はあ…」
空腹のため、丸井はため息をつき、利き手をお腹にあてます。
阻止する前に我慢をした丸井に木手はフッと笑い、
「合宿所の売店で買ったパンが残ってますが」
と、パンを差し出しました。
「え……」
木手に食べかけのパンを差し出され、受け取ろうとしていた丸井の手が引っ込みます。
「食べないのですか?」
「それ、お前が途中まで食べてたやつじゃないのか。あとの楽しみでとっておいたとか。オレが食べたら悪いよな」
木手の残したパンをもらうのを遠慮しようとしていた丸井でしたが、
「今朝買ったばかりですし、手でちぎって食べたパンですよ。分けるのに問題ないでしょう」
と、木手が言ったため、丸井は静かにパンを受け取り、一口分の量を手でちぎって食べました。
「うまっ。サンキュー」
丸井は食べ終わったあと、笑顔になって木手にお礼を言います。
「いいえ。How about you too?(あなたも一口どうですか?)」
濡烏にも勧めた木手ですが、彼は首を横に振り、丁重に断っていました。