「新テニ」理想のペア、Exciting situation
第2章 芝谷駅で迷う外国人と幾つもの誘惑
「丸井くん、彼は平気とおっしゃっているんです。座ったらどうですか」
「……おお」
木手の顔が近くに見えたようです。丸井は目をパチクリさせながら返事をし、少年からさっと離れました。そんな二人のやりとりを見た外国人のフリをした青年は、
「I understand, thank you. I'll sit down(わかった、ありがとう。座るよ)」
と、言い、丸井が譲った席に座ります。
丸井は木手の隣でつり革につかまりました。電車の揺れでたまに二人の肩がぶつかることがあり、理想のペアの間に気まずい空気が流れるのでした。それでも、青年が何か声を掛けると、いつも通りに二人は会話をすることが出来ていました。
冬花原駅に到着し、三人が電車を降りたとき、だし汁の良い匂いが漂ってきたのです。
「うん、良い匂いがしてきただろい」
丸井は鼻で息をよく吸っていました。
「冬花原駅は立ち食いそばがあるようですよぉ」
木手はそう言ったあと、しまったと思ったようです。丸井と青年の顔がキラキラしていました。
「立ち食いそばか」
「I've always wanted to try Japanese standing soba noodles.(一度日本の立ち食いそば、食べてみたかったんだよな)」