第5章 勉 強 会 と 夏 空
風が通り過ぎて、目を開ければ、片手をぶんぶんと振り回す柏木さん。
『見てあれ──!めっちゃでっかい入道雲!!』
指差す方、奥へ続く住宅街の、その上。真っ白で、もこもこの大きな雲が空高くそびえている。
『今年初めて見たかもしんない、やば!』
写真撮ろ写真、と、スマホを取りだして連射する柏木さん。なんか、入道雲ひとつでこんなに楽しそうにできるんだ。子供っぽいとか、そういうんじゃなくて、ただ純粋に、可愛いなと思った。
はしゃぐ柏木さんの背中と、大きな入道雲が写るように、パシャリとシャッターを押す。音で気が付いた柏木さんは振り返り、京治も撮ったんだねと笑った。
俺が撮ったのは、柏木さんですけどね。
木兎さんも、こんなふうに笑う人だった。周りの気持ちまで一緒に上げてくれる、そんな顔。けどあの人は、自分の道を自分で選んで、より高い所へと挑んでいる。まるで沈むことを知らない太陽だ。
柏木さんは、やっぱり女性だし、天真爛漫な笑顔にもやわらかさがある。そして、その笑顔は、俺だけに欲しいです。太陽を向き続ける向日葵みたいに、俺だけ、見てて欲しい。
『け──じぃ、早く帰ろうよ──!』
大声で俺を呼ぶ柏木さんを追い掛ける。今はまだ、このままでいいから。だからどうか、いつか時が来たら、その時は俺だけを見ててください。
ジージーと蝉の声が響く夕方、まだまだ長くなりそうな片想いも、俺はちょっとだけ楽しみになった。
『はいはい、ただいま戻りましてよ』
「悠里ーっ、俺しんじゃう!」
『死なないよ〜、テスト頑張るよ〜』
しがみつく灰羽をいなす柏木さん。
「孤爪、これ頼まれてたやつ」
「赤葦ありがとう、
このアップルデニッシュ好きなんだよね」
「前から思ってたけど、
孤爪ってけっこう甘党だよね」
まぁね、と言いながら頬張る孤爪。炭酸とラムネ菓子で生き返った灰羽も、スパートをかける。そうして、各々が設けていた今日の目標を無事に終えることが出来た。
『じゃあわたし、ご飯準備してくるから』
本棚は見ていいけどクローゼットは絶対だめ、テレビならリビングで見れる、といくつか条件を付け、柏木さんは階段を下りていった。