第5章 勉 強 会 と 夏 空
この前来てるし大丈夫だと思ったんだけど迷子かなぁ、とスマホを開く柏木さん。それから画面を見て、硬直し、やがて呆れた顔になる。
『リエーフ、寝ぼったみたい』
「ぶっひゃっひゃ、まじかよりによって今日!」
『早くてもこっち来るの2時かな...』
そうして灰羽不在で始まった勉強会、俺含め4人とも、少し会話する程度で、あとは静かですごい集中できる。目の前で他人が頑張っているという事実は、ほんの少し自分も頑張らなければいけないような気にさせてくれる。
『ねぇ黒尾さ、原田先生の授業とってる?』
「おぉ、ハラセンとってるけど」
『え、こないだの課題さ...』
そう言って、互いのパソコンを覗きあう2人。つん、と肘をつつかれれば、孤爪が困った顔をしている。
「赤葦のトコ、もうこの範囲終わってる?」
「この間やったけど、分からないとこあったの」
「この問5が解説見ても意味わかんなくて」
バレー以外で孤爪と一緒にいるの、まだちょっと不思議な感じがするな。コートにいる時はだいぶ曲者だけど、素直でこうしてると小柄な体躯も相まって可愛い。
そうして分からないところを教え合い、たまに雑談を挟み、気付けば1時間が経過していた。休憩しようかと参考書を閉じたところで、インターフォンが鳴る。
ご両親に開けてもらったのか、どたどたとかけ上ってくる足音、それとイテッと言う声、捻挫してる方の足ぶつけたか何かしたかな。
「うえぇ〜悠里〜、ごめん〜!」
『おはよう、お寝坊さん』
「よう、重役出勤」
「なんなら今日リエーフのためまであったのにね」
チームメイトからの、容赦が微塵もない。
「まぁ、灰羽もとりあえず、座りなよ」
赤葦さんの優しさが身に染みます、と半泣きの灰羽。なんで寝坊したのかを訊けば、今日が楽しみで昨日夜更かしした、らしい。まるで小学生。
両隣に座る黒尾さんにねちねち責められる灰羽は、えぐえぐと泣きながら数学の参考書を開く。テスト範囲全然終わらないですというそのワークに貼られた無数の付箋は、自力で解けなかった問題らしい。
『ほら、わたしと黒尾で見るから』
「言っとくが厳しいぜ?」
鬼教官2人を前に、うわーん、と、灰羽の切なげな鳴き声がこだました。