第5章 勉 強 会 と 夏 空
さらに粘って、もう1時間。
いよいよ灰羽の集中が切れて、その原因が空腹で、晩ご飯何か食べようかという話になる。さすがに居座りすぎたかなと思って、俺はそろそろ帰りますと荷物をまとめる。
『京治来ないの?』
「逆に居て迷惑じゃないですか」
『何言ってんの、そんなわけないじゃん』
眼鏡の向こうで笑う柏木さん。それからコソッと耳打ち。
『わたしと孤爪を助けると思って、お願い』
テーブルの向かい側を見れば、灰羽に教えるのと、黒尾さんからのちょっかいで瀕死の孤爪。このまま俺が帰れば、柏木さんがお荷物3人の面倒を見なければいけないのだろう。
どんな理由であれ、引き止められたのなら、帰る必要も無い。
「分かりました、行きますか」
『ありがとう、まじ赤葦京治大明神っ』
飛びつく勢いで俺の両手を握り、ぶん回す柏木さん。意外と積極的、手、あったかくて、やわらかい。俺のと違う、女性の手。てか、灰羽の顔すっごいな。
「赤葦さん何やってるんスか」
「俺じゃない俺じゃない、柏木さんから」
『あんたのせいだよリエーフ、
なんでこんなに勉強してこなかったのさ!』
「うぐ、だって...練習疲れてちゃって、
気づいたらベッドでそのまま寝てるし、つい...」
痴話喧嘩、始まっちゃったな。いつの間にか俺の手は解放されていて、ゴールデンウィークの合宿の時、手を捕まえたのは俺の方だったなと思い出す。
あの時も、ちょっとの好奇心と嫉妬で、名前で呼んで欲しいなんて、言ったっけ。
店外に出れば、馬鹿みたいに湿度は高く、もう19時だと言うのに暑い。足を庇いながらひょこひょこ歩く灰羽を急かし、逃げ込むようにファミレスに駆け込んで、空きっ腹を満たすべく注文をしていく。
『最近外食ばっかでシンプルに財布危ないなぁ』
ドリンクバーの白ぶどうジュースを注ぎながら言う柏木さんに、俺もそうですと答える。木兎さんがいた頃は、もっと色んなところに連れ回されたから、それはもう出費がやばかった。
『家だと集中できない、っていうか、
人の目がないと何もやる気にならない』
「木兎さんタイプですね」
『全然1人でもできるんだけどさ、
みんながいた方が捗るって言うか、うん』
手のひら返しがすごい。