第1章 高 校 卒 業
ずびずびしながら席に戻ったもんだから、奏深にも黒尾にもびっくりされて、背中をさすってくれる手があたたかくて余計に泣く始末。この後写真とか撮るのに。メイク落ちる。無理、病む。
わたしが落ち着いた頃に奏深が呼ばれて、ヤマギシさんとワタナベさんが呼ばれて証書の受け渡しはおしまい。それから数人に皆勤賞の授与があって、元気印の夜久も貰っていた。
「皆さんの担任ができてとても幸せでした、ありがとう」
最後のホームルームをそう締めくくると、誰が言うともなく教室に大きな拍手が響き渡る。歳をとると涙脆くてねぇ、と目尻を拭う先生に、前列の何人かが駆け寄りハンカチを渡したりなんかして、かえって先生の涙を溢れさせた。
それから机と椅子を後ろに下げて、先生を中心に黒板の前に並んで集合写真を撮った。無難にピース、変顔、先生の科目が数学だからと一軍男子の考え出した謎の三角関数ポーズ、たくさん撮って、たくさん笑って、クラスラインの通知が写真でどえらい事になった。
程なくして解散となり、あとは部活に行くなり残るなり自由にどうぞ、ということになった。
奏深にまたねーとハグをして、仲の良かった子達からだいたいアルバムにメッセージを書いてもらったので、黒尾と夜久を探しアイコンタクトで「そろそろ行く?」と訴えかけると、うんうんと頷く。隣のクラスに顔を出して海を捕獲し、ちょっと遠回りしようぜという黒尾の提案に乗って校舎をぐるっと巡ることに。
『みんな通るからさ、購買前のホールの装飾すごい気合い入ってるって美術部の子から聞いたけど見たくないですかみなさん』
いいじゃん行こーぜ、と夜久の賛成もあって、1階にある購買とテーブルと椅子があって憩いの場になっているホールへ向かうと、圧巻の景色が広がっていた。
床、壁、さらに天井にまで広がる草原と空の風景。ど真ん中に1本の桜の木と、真っ白な翼を広げる鳥の群れの姿。天井からは雲や鳥が吊るされ、どこまでも広がっているようにも見える。
『うわぁ、まじすごいわ…』
「めっちゃ綺麗だな…!」
「すごいね、これは…」
「ちょ、写真撮ろ!」
それぞれに感動しつつ、写真なんかを撮っていると黒尾のスマホが鳴る。しばしの会話の後に通話を切ると、黒尾がにやりと笑った。
「体育館、準備できたってよ」