第5章 勉 強 会 と 夏 空
そうして、定期考査1週間前になった。今年はインターハイも行かないので、試験前の1週間は部活は原則禁止。先生に頼んで、毎日1時間だけ体育館で体を動かす時間だけもらい、あとは勉強に費やすようにということになった。
そうして、放課後に勉強スペースとして最近気に入っている、駅のカフェに寄り道。コールドブリューコーヒーを頼み、2階席へ上がる、と。
「ええ、なんでこれがこうなるんスか!
研磨さんほんとに俺分かんなくって!」
「いや知らないし…クロにでもききなよ」
「ワリ、俺明日提出のレポートあるから」
『わたしも今日は自分の終わるまで無理、
出来るやつやんなよ、英語とかないの?』
見知った声、4人分。やっぱり今日、帰ろうかな。踵を返すが、なぁあれ赤葦じゃないという、黒尾さんの声。
嘘どれ、ほらあの階段のとこ、声かけるのはやめてあげなよ、赤葦さーん、ばかリエーフ声でかいし、すんません、赤葦気付いてんだろこっち来いよ。
どうする、逃げ切るか。顔はまだ見られていないからギリ行けるかもしれない、木兎さんと違ってあの人たちは別にしょぼくれて面倒臭いことにはなるまい。次に会ったら、俺はイヤホンをして、聞こえていなかったって言うことにしよう。
『けーいーじっ』
さすがにこれは無理でした。振り返れば、駆け寄ってくる柏木さん。赤いジャージじゃないのは、新鮮だから。そう、見慣れない姿だから、少しだけ、どきんと心臓が跳ねただけ。
「あれ、柏木さん、奇遇ですね」
『うん課題やってる、京治もお勉強?』
「しようかなって、思ったんですけど」
『うるさい、よね...』
肩越しに見れば、そわそわするでかい猫2匹と、なんとも言えない表情の孤爪。仕方がない、誘われるか。
「いいですよ、隣行きます」
『ほんと!』
迷惑だったらごめんねと言いながらも、ちょっと嬉しそうな顔をするから、ますます俺は帰れなくなった。柏木さんの横に座れば、そのミルクティ色の髪の向こう、じっと見つめる緑の目。
「赤葦さん、悠里に手出さないでよ」
『ちょっとリエーフ、またそんな言い方して!』
へぇ、そう来るか。やっぱりこいつ、まだガキだなと思いながら、そんなことしませんとワークを開いた。