第1章 高 校 卒 業
いつもよりちょっとだけおめかしをしたわたしたちに負けじとめかしこんできたおじいちゃん先生。胸には卒業生の担任の証である赤い造花が飾られている。今日のスケジュールを口頭で伝えると、みんなにお揃いの花を配り、それからちょっとの雑談タイム。
そうこうしているうちに時間になり、他クラスが廊下へ並ぶガヤガヤとした声が4組にも聞こえてきた。ここから先はお喋り禁止ですよ、と言った直後にくっちゃべる男子を一喝し、教室の外へと並ぶ。
『やばぁい、なんか緊張する…』
「大会とどっちがやばい? 」
『もちろん春高の入場の方がやばかった』
「それな」
隣に並んだ黒尾とコソコソ小声で話し、ゆっくり進む列に合わせて足を進める。校内のどこもかしこも、ピンク色の桜の花びらや紅白のカラーテープで装飾が施されており、全身で祝福ムードに浸る。
クラス順に体育館前に長蛇の列を作ると、しばらくして、卒業生の入場です、という明朗なアナウンスがくぐもって聞こえてくる。直後、ソロのトランペットが響き、ティンパニが弾けて吹奏楽部の入場曲が始まる。
こそっと数人後ろに並んでいる親友の姿を探すと、トランペットの後輩の成長に涙腺をやられたのか、既に鼻をすすっていた。いやいや、パートリーダーだったとはいえさすがに泣くの早すぎじゃないの。
テンポ良く、それでいてゆったりと流れるその曲に合わせて歩を進める。チラチラと横目で黒尾を伺い歩幅を合わせ、顔は真正面を向く。男女が左右に別れ、それぞれの座席の前に立つ。おじいちゃん先生の合図で全員が一斉に座った。
開式の言葉、国歌斉唱、校歌斉唱、お祝いのお言葉、お祝いのお言葉その2、お祝いのお言葉その3、お祝いの…と長ったらしい話をムーディな人のように右から左へ受け流し、いよいよ証書授与。
クラス代表の男女各1名が受け取り、うちのクラスからは全国大会へ出場した男子バレー部部長の黒尾と、女子バスケ部のキャプテンが選ばれた。他クラスからも、部長や生徒会役員が選ばれている。
「晴れやかな今日、我々、318名は、卒業します―――」
黒縁メガネのいかにもな生徒会長のよく通る声に耳を傾け、入場とは打って変わってしんみりとしたバラードに送られて、わたしたちは体育館を後にした。