第3章 春 風 と 合 宿(♡)
そういう所もほんとずるいです、と抱きしめるリエーフ。リエーフの体温がぽかぽかとあたたかくて、ずっとこのままぎゅーしてたいな。
名残惜しそうにわたしを足から下ろすと、手を繋いで廊下を歩いた。こんな夜中だから人はまずいないし、見られたとしてもリエーフが言いふらしてるらしいから問題もないだろう。
『じゃあ、また明日、最終日頑張ろうね』
「はい、おやすみなさい」
さっきのまねっこです、とおでこに唇を落とすリエーフ。部屋の前でばいばいをしてマネの部屋に足を踏み入れる、と。好奇な目をいっぱいに輝かせるみんなの姿が、そこにはあった。
今夜も、寝れないかも。
そして予感通り片っ端からしゃべり、ついでにみんなの恋愛相談にも乗り、安定の寝不足。最近のJKってすごいな、わたし2ヶ月前までこんなキラキラしてた自信ないんだけど。
最終日となる5日目は烏野が早くに帰るので、試合表の午前には烏野メインでの試合を盛り込んであった。音駒もセッターを手白にしたり、色んなパリエーションを試していく。もちろん、黒尾たちのOBチームともやって、こてんぱんにされていた。やはり卒業生の安定感は抜群だ。
あっという間に時間は過ぎ、お昼になり、烏野が乗り込んだバスをみんなで見送る。
『仁花ちゃん、また会おうね』
「悠里さんに会えないの寂しいです」
『合宿もあるし、試合でもきっとまた会えるよ、
うちも烏野も、強いからね!インハイで会おうね!』
可愛いかわいい、他校だけど、わたしの後輩。小さなからだに、きっとたくさんのものを背負ってる。また会おうねの気持ちを込めて、特大のハグをした。後ろで山本が倒れる気配がしたけど、もう気にしないことにした。
窓から顔を出して名残惜しそうにするみんな、ばいばーいと手を振るも、月島くんだけまっっったくこちらに見向きもしなかったのが、少し心残りだった。しょぼくれるわたしに、傍らの京治は月島もまだまだだねと苦笑いする。
次に会ったら、また話してくれるかな。初夏の近付きを報せるあたたかな風が、バスを見送るわたしたちの頬を撫でてゆく。
そうして、5日間の──わたしたちにOB・OGにとっては3日間の──合宿は、幕を下ろすのだった。