第3章 春 風 と 合 宿(♡)
春風が、夏の匂いを連れてきた。
コート上の宿敵は、そこだけじゃなさそうで。
合宿最終日、烏野は昼で帰るからと、試合をこれでもかと詰め込まれていた。嬉しいけど、正直ちょっとこの密度は疲れる。
それに、今日は朝からずっと、音駒の人たちが群れている方から視線を感じている。それも2人分。犯人が誰だかなんて分かりきっているけど、相手にするのも面倒くさいからでかい方のは無視している。
けど、もうひとりの方は。
「月島」
試合間の休憩中、汗ばむ体を少しでも冷そうかと渡り廊下にある水道にいると、赤葦さんに声をかけられた。
「なんですか?」
「昨日のことなんだけど…」
昨日のこと。
このタイミングで来るってことは、恐らく夜のやつ。
「柏木さん、月島のこと気にしてるよ」
「へぇ、そうですか」
思ってた通りだと、口角が上がる。気にしてくれているのなら、それはそれでまぁ好都合だ。そうやって、じわりじわりとあの人の意識の中に入っていけるのなら。
いずれはあんなヤツじゃなくて、僕の隣に来てくれれば。
「柏木さんって、可愛いよね」
「は…?」
「灰羽には勿体ないって、思わない?」
唐突なその言葉が意味することとは。
赤葦さんがライバル、か。灰羽ぐらいならまぁ自滅してくれればと思っていたけど、この人はちょっと厄介そうだな。
「それは思いますけど、」
赤葦さんにふさわしいかも、分からないですよね。そう微笑んで言えば、そうかもしれないねとポーカーフェイスは崩れない。やっぱり、面倒くさそう。失礼しますと体育館へ足を向ける。
もうじき最後の一戦。うるさい梟を、倒さなくては。
第3章 終