第3章 春 風 と 合 宿(♡)
それぞれの高校の主将にアイスの差し入れのことを伝え、各自好きなタイミングで冷凍庫からひとつ取っていいと伝えると、どの学校も大喜びだった。
先輩冥利に尽きるなぁと思いながら、アイスを頬張るみんなを眺める。お昼休憩の終わり間近、孤爪とアイスを食べていると悠里センパイイイイィとリエーフがダッシュ。
「アイス、ありがとうございます今食います」
『どういたしまして、お腹壊さないでね』
「はい!あと失礼します!」
何が、とは聞くまでもなく、すぽっと後ろから抱きしめられる。そして頭上からはシャクシャクとアイスをかじる音。ちょっと待ってこれはさすがにリスキーじゃない、頭に垂らしたりしないでよね。
興味津々といった様子でチラチラとみてくる人もいれば、慣れている同期や音駒のみんなのようにスルーする人も。まぁでも、元気そうに見えるけど疲れてるみたいだし、ちょっとぐらいいいか。
『リエーフ、充電できそう?』
「バッチリです、午後もがんばれます」
食べ終わったアイスの棒を咥えながら、悠里センパイありがとう、と、今度は正面からのハグ。うぅ、周りの様子が見えない。前言撤回、やっぱり助けてくれ。
ほらそろそろ始まるぞと黒尾に剥がされるリエーフ。ちょっとは元気が出たみたいで、孤爪にだる絡みをしに行った。
午後の試合用にスコア表をノートに用意していると、よいせと隣に黒尾が座り、サポーターをつけながら、口を開く。
「しっかしアレだな、大変だな」
『お察しの通りでございます』
「だから俺にしとけって言ったのに」
『はは、またまたご冗談を……』
冗談じゃないのもう気付いてるだろ、と黒尾。ノートだけが視界に入るようにしているから、黒尾の顔は見えないし分からない。
ねぇ、いま、どんな顔してるの、?
アップをしている賑やかな声をバックに、シャープペンの紙を滑る音だけがやけに大きく聞こえる。何も言えずにいると、黒尾は木兎に呼ばれ、立ち上がる。まぁ考えとけよ、と頭に手を置かれ、黒いシューズが遠ざかる。
考えるまでもなく、わたしはリエーフの彼女で、ちゃんと両想いなのに。それでも、やけに大きい心音が、その存在を主張しているみたいだった。