第3章 春 風 と 合 宿(♡)
その後、何本か赤葦と月島くんのサーブは上げることが出来たけど、木兎のと黒尾のは触れても綺麗なAパスが返らなかった。朝ご飯の準備をしにみんなより早く体育館を出ると、手伝いますとついてくる赤葦。
『あなた3年生なんだから、
もうちょっと何もしないことを覚えて?』
「木兎さんのせいで、
何かしてないと落ち着かないんです」
なるほど、職業病みたいなものか。副主将病、かな、可哀想に。
それにしても、と、ジンジンと痛む手首から前腕にかけてをさすると、赤くなってますねと赤葦が覗き込む。
『プレイヤー離れて久しいし、
まぁ相手が相手なのでね…痛いすね……』
「冷やしますか?」
このくらいいいのいいの、とお断りすると、そういうのは断らなくていいんですよ、と傍らの水道で自分のタオルを濡らしてわたしの腕に当ててくれる。まじ、できた男すぎんか。
ただ、タオルをぐるぐると手首に巻かれたから、必然的に両手が使えなくなった。なんか、赤葦の後ろを歩いていると、この状況も相まって捕まった囚人みたいな気持ちになる。
『看守〜、お腹が減りました〜』
「えぇ、囚人番号0番うるさいですよ」
えっ、赤葦ってこういうのノってくれるの、と嬉しくなって訊ねると、まぁ木兎さんのせいで、と返された。なんかあいつと同じレベルで接せられてるのは癪だな。やめよう。
『ところで赤葦、食堂についたからにはこれ、
外してくれないとわたしご飯準備できないな』
「どうしようかな」
『悩むところじゃなくない?』
じゃあ、とおもむろに口を開く。
「俺の事、名前で呼んでくれませんか」
『なんで?』
「灰羽だけ、ずるいなと思ったんで」
あれは彼氏だからなんだけどな、と思いつつ、まぁ別に、可愛い後輩の申し出は断るほどのものでも無いので承諾する。
『じゃあ今日から京治だね』
「っ、はい、それで、大丈夫です」
タオルほどきますねと言う表情は俯いていて見えなかったけれど、黒い髪から覗く形の良い耳は、少しだけ赤くなっていて。
あぁ、自分から言ったのに照れてるのはさすがに可愛いな、なんて、不覚にも思ってしまった。