第1章 高 校 卒 業
いつもの部活終わりのようにモップがけまでして――もちろんモップがけ競走にはわたしも参加した――その場はお開き、ということに。1,2年生は部室へ着替えに寄るらしく、わたしも忘れ物の最後の確認をしたかったのでついていくことにした。
同じクラスの黒尾と夜久にまたあとで、と伝え、最後尾の灰羽の横に並んだ。
「悠里センパイついに居なくなっちゃうのかぁ」
『そうだよ~。もう灰羽のお世話しなくていいから、清々してるし喜びでいっぱいでーす』
「えええぇ、なんでそんなこと言うんスか!」
りえーふないちゃう!とわざとらしく顎の下に両手をグーにしてぶりっ子ポーズをする灰羽に、こいつはずっとこんな感じなんだろうなと思わず笑みがこぼれた。
そうは言っても、入部当初からグンと上手くなっているのももちろん灰羽。下手っぴほど伸び代があるというのは、あながち間違いではないようで、つられるようにして芝山や犬岡が頑張ってくれるから、きっとこの子達の代も大丈夫だろう。
『なんだかんだしごかれてるけど、それだけ灰羽は期待されてるってことだよ。あんたはプレッシャーとか感じなそうだけど、そういう時は先輩たちのこと頼ってね』
「悠里センパイ…なんか、大人ですね…」
『当たり前よ、これでも2年長く生きてるんだから』
「ちっさいからそんな感じしないんスよね~」
んー、ちょっと黙れ。無言で膝裏を蹴っ飛ばすとナンデ!と悲鳴が飛んでくる。こんなやり取りも、もう出来なくなると思うとちょっとだけ寂しくなった。
しばらくぶりに入る部室の空気は、少しひんやりしていて、どことなく落ち着いた。マネージャー用に空けられているロッカーは2つ、前は物品置き場と私物置き場に分かれていたが、教科書の置き勉に使っていた私物用のロッカーはすっかり空。
扉の内側に部員のふざけた写真や先輩マネージャーとのプリクラなどが所狭しと貼られている。それらを1つひとつ剥がしながら、しばし思い出に浸る。最後の1枚を剥がし終え、クリアファイルに入れてカバンにしまった。
それから物品用のロッカーを開け、欠品が無いかを確認する。新入生の中にマネージャー希望者がいるかは分からないけれど、それまでみんなが困らないように。
これが、わたしがみんなにできる最後の仕事だと思ったから。