第1章 高 校 卒 業
体育館に着くと、卒業式の準備のためか、パイプ椅子を用意する生徒会役員の姿が見られた。バレー部はと言うと、入口に近い半面を借りて、ネットを張らずに自主練習、という形を取っているようだった。
1年生の芝山と犬岡が目ざとく3年生の姿に気付き、ちわっスと元気な挨拶を寄越した。ついでどたばたと長い手足をバタつかせる灰羽ががばりと頭を下げ、山本と福永がぺこりとお辞儀をした。孤爪はというと、体育館の角に収まり、スマホを横向きに持って何やら真剣な面持ち。どうせゲームだろうけど。
「よォ、みんなやってんなぁ~」
「おいリエーフ、ちゃんとレシーブやってるか?!」
「孤爪は相変わらずだね」
三者三様の反応をしつつ、各々部員の近くへと歩み寄る。わたしはというと、特に思い入れがある後輩がいる訳でもないし、マネージャーなんて全然入らなかったし、暇なので中学が同じだった知り合いの生徒会役員の子に声をかけた。
『パレー部邪魔じゃない?こんな日にごめんね~』
明らかに式場準備の邪魔をしていそうなので、軽く詫びを入れる。メガネにボブカットの真面目そうな彼女は、いいえそんな事ないですよ~と顔の前で手を振った。
「あ、私、孤爪くんと同じクラスなんですけど、バレーしてるところ見てみたかったし。教室だと寝てるかゲームだから」
『そっかぁ。まぁ、たぶん今ゲームしてるけどね』
「そうなんですよね~、せっかく見たかったのに!」
そんな話をしつつ、バレー部にしか居場所がなさそうで心配だった孤爪を心配してくれる子がいることに内心安堵した。この時期なら文理選択もとっくに終わっているだろうし、来年もこの子と孤爪が同じクラスだといいな、なんて思ったりして。
あと15分ほどで切り上げて欲しい、と言われたのは7:45の事だったので、その事を伝えに久し振りのボールにはしゃぐ黒尾の元へと向かう。
『ねぇ黒尾、あと15分だって』
「まじ?もうそんな時間か」
お前らそろそろボール片付けとけよ、声をかけると、素直な後輩たちはぱらぱらと動き出した。引退したのはつい2ヶ月前とはいえ、まだまだ主将の権力は健在と言ったところか。