第3章 春 風 と 合 宿(♡)
午後の試合も大きな怪我やトラブルなく終わり、干しておいたビブスを回収しに中庭へ向かう。時刻は17時を回っているが、西の空はまだ明るい。だいぶ日が伸びてきたなぁと思いながら取り込んではそれ用の袋に畳んでいく。
「手伝います!」
ぱたぱたとふたり分の足音が聞こえ、振り向けば音駒の1年生、佐藤くんと塩田くんだった。もう1人の子、酢川くんはと聞くと、夜久くんに教わっているとのことだった。
『え〜いいのに、先輩たちと練習してきな?』
「悠里先輩がいつもいてくれる訳じゃないので」
「俺たちもできるようにならないとな」
な、な、なんていい子たちなんでしょう、2人とも180近いから、まぁ身長だけは可愛くないが。それでもその健気さと優しさとで先輩は涙がちょちょぎれそうです、ぐすん。
明日使うからボール籠に袋をかけておいて欲しいこと、晩ご飯が終わったら洗濯を回すから午後に使ったビブスを回収して欲しいことを伝えると、了解しましたと元気な返事をくれた。
さて、暇になったなぁと思いながら第3体育館に顔を出す。案の定、昼ご飯を一緒に食べたメンツで練習をしていた。ひょっこりドアから覗いているのに気付いたのは赤葦で、良かったらと簡単な審判を頼まれた。
「柏木さん、すみませんいきなり」
『いいのいいの、暇だったから』
黒尾・赤葦チームと、木兎・月島チームに分かれての2:2形式での試合。リエーフは夜久さんのシゴきから逃げてきたのか、隅で屍になっている。
2:2は通常6人で守るコートを2人で守らなければならず、誰かに任せることが出来ないため、サーブ、レシーブ、トス、スパイク全てを自分たちで補わなければいけない。そのため、必然的に苦手なことでも段々できるようになる、という仕組みだ。
「あかーし、へい!」
「黒尾さんッ」
「ワンチ!」
「ツッキー入ってこい!」
「カバー入ります」
キュキュ、というシューズが床を滑る音、情報共有する掛け声、審判台に乗って上から見れば、どこに穴があって狙い目なのかが見えてきて、なかなか面白い。
リエーフがのそのそと復活したので、そろそろ食堂へ行こうということになり、第3体育館を後にした。