第3章 春 風 と 合 宿(♡)
ふんふふんと鼻歌混じりに、限り無く空に近いボトルを水道水でゆすぎ、スポドリの粉を均等になるように入れる。それからジャーッと勢いよく水を注ぎ、ボトルとキャップの名前を照らし合わせながら閉めていく。
渡り廊下は日陰になっているし、吹き抜けていく風が動いて少し汗ばんできた体に心地よい。あー、ずっとこのぐらいの気温がいいなぁ。
『よし、いいかな』
「あれ、柏木さん?」
ん、と振り返れば、ヒョロりと細長い手足にスポーツグラス、それからふわふわの金髪。たしか烏野の、
『月島くん!』
「お久しぶりです」
来てたんですね、と言いながらメガネを外して水道で顔を洗う。背が高いから、腰がほとんど‘く’の字で使いにくそう。そのままTシャツで拭おうとするから、コラコラと腕にかけていたフェイスタオルを押し付ける。
『わたしのだけど、
それまだ今日使ってないから使って』
「すいません」
白地に猫のシルエットがプリントされたそれは、高校の時からお気に入りで使っているもの。よいしょと籠を抱れば、持ちますと上からもぎ取られる。気にしないでいいのにと呟くと、借りは作りたくないんでと一蹴された。
相変わらず取っ付きにくい子だ、優しいけど。
体育館に戻れば、ちょうど試合が終わったところで、生川がペナルティのフライング一周を始めた。月島くんからボトルの籠を受け取る。ありがとうと伝えると、ぺこりと会釈をして去っていった。
『はいはいドリンクおまたせしました〜』
すぐに試合の振り返りを始めるみんなのところに籠を持っていけば、わっと集まる。コーチがホワイトボードも交えて説明するのを眺めながら、月島くんに貸したままのタオルの存在を思い出す。
すぐ近くの烏野のところに駆け寄り、月島くんを呼ぶ。うわ、すごい嫌そうな顔。
『(た、お、る!)』
「あっ、」
口パクで伝えれば首にかけたそれを慌てて持ってくる。
「すいません、忘れてました」
『いいのいいの、気にしないで!』
やっぱりぺこりと会釈をして、輪の中に入っていく月島くん。音駒のところに戻ると、リエーフが待っていた。