第3章 春 風 と 合 宿(♡)
リエーフ、と声をかける前に木兎の邪魔が入る。よけてくれ。お呼びでなかったかな、とひょっこり顔を出せば、想像以上に疲れ切っているリエーフ。2年生って板挟みになるし、やっぱ大変なんだなとひしひしと感じる。
OB組は試合に向けてストレッチやらアップを始めたので、わたしはと思いマネちゃんたちにご挨拶回り。
『ひーとーかーちゃんっ』
「ひゃわっ、悠里さん、うぅ…!」
会いたかったですぅと言う仁花ちゃんとハグ。最後に会ったのは春高だから、かれこれもう4ヶ月ぶりぐらい。初めてあった頃より伸びた髪と、ほんのちょっとの自信か、2年生らしい姿になってきている。
「みんな前にあった時より背が伸びていて…
巨人の密林具合が増していて、胃が痛いです…」
『そうだよね、潔子ちゃんもいないもんね』
前言撤回、やっぱり緊張しいの子鹿ちゃんのままです。でもそんなところも可愛いんだから。3日間よろしくね、とすっかり猫背になってしまった背中をさする。
ぐるりと見渡せば、生川、森然、梟谷には新しいマネが入っている。それぞれのチームのところを回ってぺこぺこしてから、ようやく音駒のところに回ってきた。
『直井コーチ、猫又監督、
改めて3日間よろしくお願いします!』
「嬢ちゃん来るの、みんな待ってたよ」
「特に灰羽とか、な」
それはどうも…と苦笑い、いったいリエーフは何を喋っているやら。コートに目をやれば、音駒と生川の接戦、強いサーブで相手を崩すやり方の生川と、拾い続けてひたすらにチャンスを狙う音駒、互いにやりにくい相手なのだろう。
ただ、気になるのはこちらをチラチラチラチラ見てくるリエーフの姿。その度に孤爪か山本かにど突かれている。仕方ない、全く、手のかかるやつだ。
今回の合宿用に持参したノートを丸め、簡易メガホンを作る。そわそわしているリエーフに向け、吠える。
『リエ───フッ!一本集中───ッ!』
「ハイィッ!」
はっとして自身の頬を叩くリエーフ、一気に集中モードに入り、もう大丈夫そうだなと安心する。ついでに音駒の雰囲気も締まったようだ。
試合終了まであと10分ほどと行ったところか、軽いのが目立ち始めたドリンクのボトル籠を持って、渡り廊下にある水道へと向かった。