第1章 高 校 卒 業
夜。お風呂上がりにスマホを開くと、ちょうどそのタイミングで本日彼氏に昇格した奴からの連絡が入る。
今話せますか、の文字に、いいよと返してる途中なのに電話がかかってきた。あいつほんとに...
『もしも...』
「もしもし悠里センパイ!
既読ついたんでそのままかけちゃいました!」
分かったから落ち着けとなだめる。本当にこいつは、もう制御の効かないでかい犬みたいだ。電話どうしたのと聞くと、声が聞きたかったんですとストレートな求愛。これは初日からなかなかだなと思いつつ、ハイハイとふたつ返事をする。
「ほんとに夢みたいで、めっちゃ嬉しくて」
おれ付き合った日数数えるアプリ入れちゃったんスよね、なんて言うから、不覚にもちょっと可愛いと思ってしまった。
『灰羽って可愛いね』
「えへへ、褒められて嬉しいです
あ、てか名前!また戻ってるんですけど!」
『あ、ごめん。リエーフか、そうだった』
名前の登録も直しておこうかな、と小さく呟いたのがマイクに入っていたらしく、まじすか嬉しいっす!とワントーンが上がったのが聞こえた。
「センパイ、次いつ会えますか」
『別に、部活終わりとかでもいいなら時間作るけど
てか普通に3月は部活顔出そうと思ってるし』
海は難しそうだけど関東在留組は行けるよ、と続けると、夜久さんにもうしごかれたくないですと悲しそうな声が聞こえた。
「でも、センパイに会えるならなんでもいいです!」
『分かった分かった、
じゃあ日付合わせていくから、また教える』
「ハイ!あ、あとあの、その...」
『ん?』
夜に声聞きたくなったら電話してもいいですか、とリエーフ。普段の彼には想像できない、優しくて、でもちょっと寂しそうな声。
それもそうだ、これまで毎日顔を合わせていたのが、明日からいきなりなくなってしまうのだから。付き合ってなくたって寂しいのに、彼氏になったばっかりのリエーフはなおのことだろう。
『もちろん、全然構わないよ』
「やった!」
一緒に話しながら寝たりとか、朝まで電話したりしたいんですよね、と無邪気に言うから、追々ねと苦笑する。
そうして、夜は更けていった。