第1章 高 校 卒 業
ちょっと待ってなんて言った、俺の方が早かったら俺の彼女になっていたか、彼女になっていた、え、は、黒尾、待って待ってどういうことだ。
『へ、?』
声、と言うよりは空気が出たに近い、気の抜けた返事。立ち止まってこちらを見つめる黒尾の表情は、街灯が逆光になっていてはっきりとは見てとれない。
黒尾が、わたしを、好きだったのか。
それが限りなく事実に近いのは、もう分かりきっていて。
『あ、いや、えと...
黒尾とは、そういうんじゃない、っていうか』
「でもリエーフだってそうだろ」
正論。
もし、あそこで呼び止めたのが黒尾で、そこで2人きりで、同じことを言われてたら。わたしは、どうしてたのだろう。
黒尾のことは好きだけど、でもそれは友達としてというか、同じ部活の仲間として、っていうニュアンスが強くて。確かに背も高くて顔もまぁまぁで意外と優しいし周りのこと考えてるし、良い奴だと思う、すごく。
けど、黒尾と付き合うとなると、え、付き合ったらどうなるんだろう。想像したこと無かった。でも、部活中にキュンとしたこととかも特に無いし、いやでもそれってリエーフにも当てはまっていて、あぁ。
「すげぇ顔してる」
『えっ、いっっっった!?』
ここ、と眉間をデコピンで弾かれる。威力大。
『ちょ、何すんのまじで!頭割れるんだけど!』
「はっははは、はは」
腹を抱えて笑い出す黒尾。止めていた歩を進めるから、半歩後ろを着いて歩く。
「まぁ、あれだ、もしもの話だから、
そんなになるまで悩ませたなら悪かったよ」
『いや、そんなことは』
「でも困っただろ」
『ぐぅ』
「ぐぅの音出てんぞ」
やっぱり、こうして話してるのは好き。
『わたし、黒尾のことは友達として好き』
「あっすっごいストレートに振られた」
ちょっと悔しいけどしゃーないな、と黒尾は後頭部をガシガシとかく。部活に顔出す日は3年のグループで話そうぜ、そういうと黒尾は自宅の方向へときびすを返した。
駅から反対なのに、送ってくれるのはいつものことで。それも、好きだったからなのかな、なんて思ってしまう。
彼氏ができたほのかな甘みと、友達を振ったというささやかな苦味が、ごちゃ混ぜになっていった。