第7章 夏 休 み 合 宿 後 半 戦(♡)
孤爪…いや、研磨とのやり取りを見聞きしていたのか、いそいそと片付けに戻る私の上に、黒い影が降ってくる。
「孤爪さんも名前で呼んでるんですね、
柏木さん」
『びっ、くりしたぁ、月島くん…』
驚かさないでよ、と振り向けば、なにやら不機嫌そうな佇まい。手を後ろで組んで、いつもの取り繕った笑みで、月島くんはにへら、と笑う。
「灰羽がいるのに他の男にもちょっかい?」
『なっ、そんなんじゃないし!
って言うかなんなの、その態度!』
「僕、柏木さんのこと、
先輩だって思ったことないですもーん」
『カッチーン』
ププッと笑う月島くんに、口から擬音が飛びしちゃうぐらい、今の一言はピキッとくる。すると、その顔に貼り付けていた笑みを消し、真っ直ぐに見詰めてくる。バレーをする時、ネットを挟んだ相手コートを観察する時みたいな、真剣な表情。
ガラリと変わった雰囲気に、不覚にも、ドキリ。
「柏木さんのこと、異性として見てますから」
『つ、きしま、くん?』
「あーあ、僕も名前で呼んでほしいな」
灰羽が良くて赤葦さんと孤爪さんも良いなら僕も良くないですか、そう言いながら、私に目線を合わせるために少し屈む。
「付き合ってるワケでもいないし、
脈だって無いのもわかってます、不毛って」
『え、えと…』
「それでも、ワガママ、だめですか?」
クレバーで切れ者、早くも烏野のブロックの司令塔として頭角を現しだした彼にとっては、きっとこれも作戦なのだろう。
色素の薄い白い肌、ふわふわな金の髪。黙られると恥ずかしいんですけど、とフイと逸らす視線、少しだけ赤い頬。それはきっと、むせかえるような夏の暑さのせいではなく。
『けい、くん』
「くん付けも、嫌です」
『じゃあ、蛍?』
「それがいいです」
再び交わる視線、ぶっきらぼうな彼にしては珍しく素直なその嬉しそうな表情に、分かりやすく自分の鼓動が速くなるのを感じた。
屈んだせいでただでさえ近かった距離、ぐんと顔を耳元に寄せられ、ぼそりと囁かれた言葉に、ボンッと顔が赤くなる。それを見て満足したのか、蛍は笑いながら山口くんの所へ向かった。
───あんまりうかうかしてると、
かっさらっちゃいますよ。