第7章 夏 休 み 合 宿 後 半 戦(♡)
速攻でリエーフの膝から下りると、お願いだからみんな忘れて、と言いながら土下座をするような格好で丸くなる柏木。
「可愛かったよね、犬岡くん」
「うん、めっちゃ可愛かった」
『やめて2人とも、
そんなピュアピュアな顔で話さないで』
「なんで俺がフジュンみたいに言うんですか」
「『事実だろ』」
思わず柏木とハモれば、顔を見合せて笑う。実際、リエーフちょっと危なかったからな、イロイロ。
『すっかりお邪魔しました、すみません、
もう時間なのでそろそろ撤退します』
薬切れてきたし、と言いながら下腹部を抑え、立ち上がる柏木。部屋まで送りますとリエーフもその後を追う。また明日、と手を振って、愛嬌を振りまいて、柏木は扉の向こうに消えた。
ふぅ、と部屋を見回し、あいつが持ってきたパッドを置いてきていることに気が付く。返してくるぞ、と試合の続きが気になって名残惜しそうにする1年共に、柏木なら優しいからまた明日貸してもらえと伝え、端末を受け取る。
まだ暑さがほのかに残る廊下に出て、手元の端末に目をやる。音駒と同じ色の本体に、透明のクリアケース。そこには最後の春高で撮った集合写真が挟まれている。
こういうのを、魔が差すと言うのだろうか。
動画を撮ったりするのにわざわざ自前で用意してほとんど部活で使っていた端末、そのロック画面が、気になって。真っ黒なディスプレイ、反射する自分の顔。指が電源ボタンに伸びる。
『─エ──、も───だっ───』
人の声がして、ハッとする。
今回の合宿では使っていないはずの空き教室から、がたがたと物音、それから女子の声。まさかと思いドアの窓から中の様子を伺えば、案の定リエーフと柏木。
「ビバ不純異性交遊〜!」
『うわあああぁぁぁあああああ?』
「げ、クロさん...」
いいとこだったのに、としょぼくれるリエーフと対照的に、柏木は暗がりでも分かるぐらいに顔を真っ赤にさせている。
「イイトコで悪いけど、
忘れ物届けに来ただけだから〜」
手近な机にそっと端末を伏せて置く。それじゃあごゆっくり、とドアを閉める。今度こそ、暗い廊下に響くのは、自分の足音だけだった。