第7章 夏 休 み 合 宿 後 半 戦(♡)
膝の上に頭を乗せた柏木は、そんな言葉を呟いて、すぅと寝息を立て始めた。ふーっと特大のため息をつけば、部員の輪から抜けた研磨が猫のように音も立てず、そろりと近付く。自分の布団の上にあったタオルケットを、優しく柏木にかけるその表情は、柔らかい。
「悠里、寝ちゃったね」
「おぉ、とんでもねぇ事言ってな」
「おれ、久し振りに名前呼ばれた」
「俺もだっつの」
こいつはきっと覚えてねぇけどな、と顔にかかる髪の毛をはらってやる。
大学の入学式の日、スーツを着たこいつは見慣れない頭をしていた。大事に伸ばしていたであろう髪を、いとも簡単に短くして、綺麗な色をしていた地毛は、新しい季節に感化されたかのように明るかった。
何も言わずに柏木の寝顔を眺める研磨。相変わらず可愛い顔だね、というその頭には、幼い頃の柏木の姿でも思い浮かべているのだろうか。
「昔から実はモテてたよな」
「クロが片っ端から威嚇して回るから、
ほとんど告白はされてなかったけどね」
「違います、威嚇ではなく害虫駆除です」
もっと酷いじゃん、と喉の奥でくつくつと笑う研磨に、お前もそれとなく同級生に牽制してたの知ってるんだぞと毒づく。
俺たちがしてきたことを柏木に伝えたらどんな顔をするだろう、わたしの青春の邪魔しやがって、とか言って怒りそうだな。まぁ、笑ってても寝てても怒ってても、何してても可愛いんだけど。
一応、10分経ったので肩を叩いて起こすのを試みる。だがこいつは寝付きが良すぎて深い眠りに入るとなかなか起きないのは、これまでの学校生活でも経験済みだ。
「柏木、10分経ったぞ」
『...ん............』
ほぼ寝ている返事に、研磨と顔を見合せ、ダメだこりゃと目で会話する。ちら、と動画に夢中な後輩たちを見れば、何名か寝落ちしているが、試合はまだ4セット目、かなり長丁場だったようだ。
そしてリエーフは起きている。昨日のこともあるし、このままなのも可哀想だから、あとはこいつに頼むか。
「おいリエーフ、柏木頼んでいいか」
「はい?
え、悠里寝ちゃったの!」