第1章 高 校 卒 業
「センパイ、悪い男につかまりそうです」
『ふ、もう今捕まってるじゃん』
「え、俺って悪い男っスか!?」
『どう見てもそう』
スーツ着たらマフィアみたいだよ多分、と続けると、灰羽の背中がシャキっと伸びる。
「お願いします、俺の彼女になってください」
そしたら音駒の大エース頑張るんで、と言いながら手を顔の前で合わせる。弱ったな、かわせる感じでも無さそうだ。別に恋愛対象として見ていなかっただけで、灰羽のことは嫌いじゃないし。
じゃあ付き合っても良いんじゃね、いやいや気持ちがないのは失礼でしょ、これから好きになればいいんだよ、それですきになれなかったらどうするの、なんて。頭の中で天使と悪魔がせめぎあいをする。
『わかった』
「え、いんスか!?」
『ただし、3ヶ月ね、3ヶ月
5月まるまるいっぱいまでは約束する、
その先はわたしの気持ち次第、それでいい?』
「全然いいです、まじですかホントですか!」
ヤッターと叫び、両手を突き上げる灰羽。そのまま手を伸ばし、腕の中に閉じ込められた。さっきよりも強く香る、柔軟剤、耳元で聴こえる、ドックンドックンという心臓の音は、少し早い。
「めっちゃ嬉しいです、
当たって爆発するかと思いました」
『うん、当たって砕けるだね、
なんか被害すごいことになってるよそれだと』
そのままの体勢でそんなことを話す。わたしは背中を向けているから分からないけど、後ろに人はいないだろうか、見られてたらバカップルみたいでちょっと恥ずかしいんだけど。
めっちゃ大切にします、うんめっちゃ大切にしてね、大学で浮気しないでください、努力します、そこはハイっていってくださいよ、なんてふざけたりして、灰羽の温度が離れていく。
『まぁ、3月中は部活にも顔出すから』
「うス...あ、そうだ、センパイ、
俺のこと名前で呼んでください!」
『リエーフって呼んで欲しいの?』
「うわ待ってまじか、やべぇ、すげぇ嬉しい」
口を押さえてやや頬をあからめる灰羽、もといリエーフ。
『よろしくね、リエーフ』
「〜ッ、センパイそれ分かってやってますよね!?」
こんにゃろう、とガバッと抱きしめられた。