第6章 夏 休 み 合 宿 前 半 戦(♡)
マネージャー用に使っている部屋の前まで来ると、黒尾はここで待ってるから着替えてきな、とそっと下ろしてくれた。
『ごめん、重くて、
あと黒尾のジャージ汚した、かも』
「いいってそんなん、洗えば取れる」
ごめんともう一度言って、部屋に入る。途端、どっと疲労感。のそのそとキャリーケースまで這うようにして進み、万が一に備えて持ってきていたサニタリーショーツと、ナプキンを取り出す。
そろりとズボンとショーツを下ろせば、ぺっとり張り付く経血。スマホの記録アプリを開けば、最後に来たのは6月の半ばだった。それじゃあ今来ても仕方ない、か。
常備しているノンアルコールのウェットティッシュでサッと拭き取り、新しい服に着替える。そうだ黒尾のジャージ、と思って色々ひっくり返して見たが、2cmくらいの小さな染みがあるだけだった。これなら落ちそう。
『ごめん、お待たせしました
借りたジャージ、洗って返すね』
「なんだ、自分のジャージ羽織ったのか、
そのまま俺の着てても良かったんだけど」
どっちがいい、と黒尾が手渡してきたのはココア2つ。同じじゃん、と思ったら、冷たいのと暖かいのだった。
「夏だから冷たいのがいいかと思ったけど、
腹痛てぇなら温かいのか迷ってよ」
『あ、じゃあ、温かいので...』
ん、と手渡されたそれを両手で包み込む。なぜだか分からないけど、じわ、と視界が滲んだ。
「おーおーちょっと待て泣くならこっちな」
ほらおいで、とベンチに促される。座って、ペットボトルのキャップを開けて、ココアをひとくち飲む。あったかい。
『なんかもう、色々しんどい』
体は辛いし恥ずかしいし、結果的にリエーフにも嫌な思いさせちゃったし。それでも黒尾が優しいから、今は耐えてる。
「ヤなことって、重なる時重なるよな」
大丈夫、お前は頑張ってるよ。卒業したのに部活のことも見てくれてるし、大変だろうけどリエーフのことだって。
トン、トン、とお母さんが子供にするように背中をリズム良く叩かれ、目の表面で留まっていたしずくは瞬きと共にこぼれた。啜り泣くわたしに何も言わず、黒尾は背中を叩いてくれる。
その優しさに甘えて、少しだけ泣いた。