第6章 夏 休 み 合 宿 前 半 戦(♡)
途端、顔に集まる熱。
『む、り、やだおろして、黒尾っ』
「病人ほったらかせるほど
クローサンは優しくありませーん」
『ねぇ、ほんとに』
見られてる、恥ずかしい、重いのに、お腹痛いけど、でもこんなの。色んな思いが頭をぐるぐるして、掴まんねぇと落とすぞって至近距離で言われて、咄嗟にシャツの襟ぐりを掴んだ。
「研磨ァ、そこ拭いといて」
「わかった、悠里行ってらっしゃい」
『ごめん、孤爪......っ』
付き合ってもない女の、しかも先輩の後始末を孤爪にさせるなんて、本当に申し訳ない。颯爽と歩き出す黒尾は堂々としていて、わたしはただその胸にしがみつく。
宿舎に近付くにつれ、だんだんと賑やかな声がして、それがお昼ご飯を食べに行ってたみんなのものだと気付くのにそう時間はかからなくて。角をちょうど曲がったところで、リエーフと目が合った。
「悠里!?」
『りえ、ふ』
「おらどけ、病人だ」
ずかずかと通り抜けようとする黒尾の肩を、待ってくださいとリエーフが掴む。
「俺の彼女に何してるんですか、
クロさんでもやって良い事と悪い事あります」
「緊急事態なんだよ、分かったら手放せ」
「良いですこっからは俺が連れてきます、
部屋ですか、保健室ですか」
あぁ、このタイミングで一番会いたくなかったし、喧嘩しないで欲しい。こっちはもうさっきからお腹が痛くて仕方ないのに。
それとも生理が来てそれで汚したって、今ここで言うのか。それでリエーフに連れていってもらうか。そもそもこれ以上痴態を晒したくない。日向くんとか、犬岡とか、他の子もいるのに、それは、無理だ。
『くろお、もういい、行こ、
りえーふごめん、あとで、言うから』
「ちょ、悠里!なんで!」
「行くぞ」
よっこらせ、とわたしを抱え直した黒尾。リエーフの手からずるりと力が抜けて、その手は空を掴んだ。リエーフの信じられないものを見るような視線が、わたしを刺す。
ほんとにごめん、でも今は無理なんだ。お願いだから、わたしが死ぬほど体調悪いって、分かって欲しい。昨日の今日で、ごめんなさい。
リエーフのことがとてもじゃないけど見ていられなくて、わたしは両目を瞑った。