第6章 夏 休 み 合 宿 前 半 戦(♡)
運悪くシンクの縁に当たった水が、無秩序に乱反射して辺りに飛び散る。
『ひゃああ、ちょっ、待っ』
「柏木さん!?何してるんですか!」
慌てて京治が手を伸ばし水を止めてくれたが、2人ともびしょ濡れだ。最悪、何やってんだ、これから審判頼まれてるのに。しかも京治まで濡らしてしまった。いやちょっと涼しいけども。
『まじ、ごめん......』
「俺はいいんですけど、柏木さんが...」
『いやいやわたしこそどんでもいいから!』
「そうじゃなくて、っその......」
口元を手の甲で抑え、京治は視線をそらせる。まさか。ハッとして自分の服を見れば、白いTシャツが濡れ、中に着ている下着が物の見事に透けてしまっていた。
『う、これは、お見苦しいものを...』
「いや、可愛いと思います、ピンク」
『見てんじゃん!』
「不可抗力ですってば」
これ使ってください、と京治は腰に巻いていたジャージを手渡す。自分のは寝泊まりする部屋に置いてきてしまったし、取りに行く間に誰かに見られるのも忍びない。仕方ない、ありがたくお借りしよう。
袖を通せばふわりと香る、知らない柔軟剤。初めて行く友達の家のルームフレグランスみたいな、そんな不思議な匂い。ちょっと暑いけど、上までチャック閉めておこう。
『借りたところで悪いんだけど、
リエーフに見られたら面倒だから、
第3体育館行く前に着替えてきちゃうね』
「そのままでもいいですけど、
俺のものって感じがしていいですし」
遠慮しますと深々と頭を下げ、ボトルをメイン体育館にある音駒の荷物置き場に運び、宿舎へと歩き出す。柏木さん、と、まだ水飲み場にいた京治に呼び止められる。
ん、と振り返ると、カシャっとカメラのシャッター音。
『なに、堂々と盗撮?』
「俺のジャージ着てる柏木さん、
クるものがありますね、これは...」
『変なこと言わないの』
後で行くから先に行っててと言い残し、服を着替えに駆け出す。そうして、マネージャーの部屋に着いたところでマネちゃんたちに捕まり、なんで赤葦さんのジャージ着てるんですかと問い詰めれたのは、言うまでもない。