第3章 未知との出会い、騒音との再会
上官の呼び声、ましてや今となっては師範の呼び声を無視するわけにはいかない。けれども、天元さんの方に行けば、待っているのは現状、私が最も苦手だと感じているお相手、炎柱へのご挨拶。
…どっちも嫌!!!
そう思った。そう思いはしたものの、どちらかといえば、女将さんの教えを破ることの方が嫌だ。
大丈夫!きっと末端隊士である私のことなんて、疾うの昔に忘れてしまっているはず!
そう自分に言い聞かせ、
えいやっ!
と無駄に勢いを付け天元さんと炎柱様がいる方向へと向き直り、そちらに向け脚を進めた。
「なにもたもたしてんだよ。ほれ、こいつ、荒山鈴音。見た目は弱っちそうだが、探査能力と判断力に関しては優秀。そこを伸ばしてやるように派手に面倒ではあるがお館様に頼まれたってわけ」
一瞬褒められ
あ、嬉しい
と思ったものの、炎柱様から注がれる熱視線に私は今すぐ天元さんのその大きな身体の陰に隠れたい衝動に駆られていた。けれどもだ。何度も言うが炎柱様はあくまでも私の上官。きちんと挨拶をし、自ら名を述べるべきである。
「お疲れ様です。私は、階きゅ「君は確かあの時の!」……あ…はい」
忘れてくれてよかったのに…
そう思いながら、うなだれてしまいそうになるのをグッとこらえた。更には私からすれば必要以上に大きな声で自分の言葉を遮られ、相変わらず感じてしまう威圧感に、さっそく最近薄れつつあった、”体格のいい声の大きい男性”に対する苦手意識がにょきりと顔を出す。
そんな私と炎柱様のやり取りに
「なにお前等もう知り合い?」
と天元さんに尋ねられる。
「うむ!以前救援に駆け付けた先に彼女がいた!立ち回りは素晴らしいが、筋力の不足が伺えてな!稽古を付けてやるから鴉を寄こすようにと伝えたが一向に来ない故今の今まですっかり忘れてしまっていた!」
そんな炎柱様の言葉に、
そのまま綺麗さっぱり忘れて去ってくれれば良かったのに
と心の中で文句を垂れる。
そして、天元さんはといえば
「…へぇ」
私と炎柱様を交互に見遣りながら、にやにやと抑えきれない笑みを浮かべている。