第17章 幸せな音が溢れる世界で
杏寿郎さんは、そんな私の言葉にきょとんとした表情を浮かべた。けれどもすぐ、穏やかな笑みへと変わり
「…そうか」
と、呟いた。
私は杏寿郎さんの左手を取り、互いの指を絡めるように繋いだ。
そして
「行きましょう」
と、声をかける。
杏寿郎さんは、絡み合った指の感触を確かめるように握り直すと
「うむ!」
いつもの快活な声でそう答えた。
その直後
"煉獄!鈴音!さっさと来ねぇと、俺様直々に探しに行くからなぁぁあ!"
天元さんの大声が、再び聞こえてきた。
「……うるさい師範です」
「まったくだ!」
私と杏寿郎さんは、2人仲良く歩調を合わせ、大切で、かけがえのない仲間がいる大広間へと向かった。
大きな音が嫌い
大きな男の人が嫌い
騒がしいのが嫌い
自分のことが嫌い
嫌いばかりで溢れていた
私の世界はもうない
嫌いばかりの私の世界を
杏寿郎さん
あなたが変えてくれたから
ありがとう
あなたと出会えたから
私は今日も明日も
それから明後日も
ずっとずっと
幸せなの
「…っ…動いた…杏寿郎さん!今…動きましたよ!」
「なんだと!?…む!服の厚みで全くわからん!今すぐそれを脱ぐんだ!」
「そんなことできるわけないじゃないですか!大体、触ったってまだわからないですよ!」
「何!?…く…せめて俺も、鈴音や我妻少年…せめて宇髄くらいに耳が良ければ」
「そのうちわかるようになりますから…そんな顔しないで下さい」
「そのうちとはいつだ!?待ち遠しすぎて気が遠くなりそうだ!」
「…耐え症のない人ですね」
「俺の耐え症が無くなるのは鈴音に関しての事だけだ!」
「…っ…そんなこと、自信満々に言わないでください」
「わはは!」
「…全くもう……可愛い人なんだから」
「む?今なんと言った?」
「……なんでもありません」
これからもずっと
私とあなたの世界が
たくさんの幸せな音で
溢れますように
【音の溢れる世界でいつか】
-完-