第17章 幸せな音が溢れる世界で
……そうだ…杏寿郎さんは…こういう人だ…
朝焼けのような明るい光で私を照らし、夕焼けのように優しい光で包み込んでくれる。そして、どんな私であろうと、全身全霊で受け止めてくれる。
そんな杏寿郎さんだからこそ、私はこれからもずっと隣にいられると…隣にいたいと思った。
……じぃちゃん…私の側にはこんなにも素敵な人がいるの…だから安心してね
私は杏寿郎さんと同じように遠くの雷雲をじっと見据え、心の中でそっと呟いた。
本当はじぃちゃんに、杏寿郎さんとの事をきちんと報告したかった。
"なんじゃとぉ!?"
と、目が飛び出してしまいそうな程に驚く反応を、見てみたかった。
そう考えると自ずと
”あの時手紙を送っていれば”
という後悔の念が胸に押し寄せてくる。
……だめだめ…終わった事をあれこれ考えたって何の意味もない…手紙は送れていなくても…じぃちゃんなら絶対に…わかってくれてるはず
自分自身に言い聞かせ、遠くの雷雲を目の奥に焼き付けるようじっと見た。
黙ったまま雷雲を見つめ、10秒ほど経過したその時
「鈴音」
杏寿郎さんに名を呼ばれ
「……はい」
私は、雷雲に向けていた視線を、隣にいる杏寿郎さんへと移した。
私と視線が合った杏寿郎さんは、私の顔の前あたりに封筒を1通、スッと差し出してきた。
杏寿郎さんの急な行動に驚いた私は、差し出された封筒をじっと見ながら固まってしまう。
けれども
……あれ?…この封筒って…
形、色、そして渋い柄。それらは何度も目にしたことのあるそれで
「……杏寿郎さんが…どうしてこれを…?」
封筒に向けていた視線を、斜め上にある杏寿郎さんへと移した。
杏寿郎さんは、視線を下げ、僅かに考える素振りを見せた後、真剣な表情で私の目をじっと見つめてきた。
「これは俺が桑島殿にお送りした文に対する返事だ」
「…っ…じぃちゃんへの……文?…そんなの…いつの間に送っていたんですか?」
「鈴音を俺の邸に住まわせるようになったあの日だ」
「………」
確かにあの日、私が杏寿郎さんの部屋に行った際、杏寿郎さんは文を書いていた。けれどもまさかその文が、じぃちゃん宛のものだとは、少しも考えはしなかった。