第17章 幸せな音が溢れる世界で
「君にとって桑島殿は、家族も同然の存在。故に俺は、君と恋仲になったこと、邸に招き入れ共に暮らし始めたこと、ゆくゆくは妻に迎えるつもりであることを報告させてもらった」
そんな杏寿郎さんの言葉に
「…っ…!」
私は息をするのも忘れる程に驚いた。
「鈴音の許可も得ず、勝手なことをしてすまない。だが俺はどうしても、日々君の身を案じている君の大切な人に、君は大丈夫だと、俺が幸せにすると伝えたかった。そしてその文に対する返事がこれだ」
私は恐る恐る封筒へと手を伸ばし、両手でそれを受け取った。
「……読んでも…いいんですか?」
「あぁ。本当はもっと早く見せてやりたかった。だが状況が状況だけに、今になってしまった…すまない」
私は、申し訳なさそうな顔でそう言ってきた杏寿郎さんに対して首を振り、謝る必要はないと意思表示をする。
それからゆっくりと既に切られている封を開け、中の便箋を取り出した。
様々な感情が込み上げ震えてしまいそうになる手を何とか抑え、ゆっくりと4つ折りになっている便箋を開く。
便箋にのっている文字は確かにじぃちゃんのもので、まだそれを視界に映したただけだと言うのに、目の奥が、胸の奥が、痛いくらいに熱くなった。
ゆっくりと目を閉じ
……ふぅ
と息を吐く。
それから、閉じた時と同じようにゆっくりと目を開くと、じぃちゃんが杏寿郎さん宛てに送ってきた文に目を通し始めた。
「……っ…」
便箋に綴られた文字は、涙の膜でなかなか読めなくなり、読み進めれば進めるほど膜は厚くなり、そして剥がれ、また膜が張るのを何度も何度も繰り返した。
育手であり、元鳴柱あったじぃちゃんは、杏寿郎さんのことを元々知っていたようで
"君の噂はよく耳にしている。君のような男が鈴音の側にいてくれると思うと安心だ"
と、書かれていた。
けれどもその一方で
"もし万が一、あの子を傷つけるようなことがあれば、私が決して許しはしない。私の家に連れ戻し、2度と会えることはないと思っていてくれ"
杏寿郎さんを脅すようなことも書かれていた。