• テキストサイズ

音の溢れる世界でいつか【煉獄さん】【鬼滅の刃】

第17章 幸せな音が溢れる世界で


風向きから考えて、あの雲がこちらまで来ることは恐らくない。それでも、私の耳には、遠くの雷鳴がしっかりと届いていた。

目を瞑り、その音を聴いていたその時


「疲れてしまったか?」


いつの間に来ていたのか、杏寿郎さんが静かな声で私に話しかけてきた。

私は、瞑っていた目を開き、杏寿郎さんの方へと視線を向け


「…そうじゃありません」


と返事をした。

それから遠くに浮かぶ雷雲を指さし


「雷の音が聴こえた気がして…そしたらやっぱり…ね?」


杏寿郎さんに向け、にっこりと笑いかけた。

すると杏寿郎さんは、不思議そうな顔をしながら首を傾げ


「鈴音は雷が嫌いだったろう?何故わざわざ嫌いな音を一人で聴いている?」


そう尋ねてきた。

私は杏寿郎さんへと向けていた視線を、遠くに見える雷雲へと戻す。


「…前は…嫌いでした。いきなり大きな音がして…うるさいし、怖いし。……でも、今は違います」

「何故だ?」

「………だって……じぃちゃんを、思い出すから」

「…そうか」


どんなに会いたいと願っても、死んでしまったじぃちゃんに会えることは、二度とない。それでも、じぃちゃんと過ごした日々を私が覚えている限り、じぃちゃん…桑島慈悟郎という存在が、この世界から消えることはない。

そして私は、雷鳴が聞こえる度、どんなに時が経とうと、じぃちゃんの事を思い出す。つまり、じぃちゃんの存在は、絶対に消えたりはしない。


「この姿…じぃちゃんに見てもらいたかったなぁって…ちょっとだけ…思ってたんです。だからね…馬鹿みたいな妄想だって思われるかもしれないけど…じぃちゃんが、あの雷雲から私のことを見てくれてるんじゃないかって…そんな風に思ってたんです」


稚拙な想像が恥ずかしく、にへらと情けない笑みを浮かべながら、斜め上にある杏寿郎さんの顔を見上げた。

けれども杏寿郎さんは


「鈴音がそう感じるのであれば間違いない!桑島殿が遠路はるばる君の晴れ姿を見に来てくれ、俺は夫としてとても嬉しい!」 


遠くにある雷雲を見据え、そんな風に言ってくれた。



/ 932ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp