第17章 幸せな音が溢れる世界で
それから
「君も!遠慮せずこっちに来るといい!」
杏寿郎さんは遠くの方にいる誰かへと声を掛けた。それはもちろん
「っうっせぇ!俺は別に、羨ましぃだなんて思っちゃいねぇ!」
もぐもぐと頬を一杯にしながらご飯を食べていた伊之助君だ。
伊之助君は半ば怒鳴るようにそんな事を言った…のだけれども、おもむろにその場から立ち上がり
「…だが……子分が番と子孫を手に入れた祝いくらい…してやらなくもねぇ…!」
ズンズンと近寄ってくると、禰󠄀豆子ちゃんと杏寿郎さんの間にある僅かな隙間にその身体をねじ込んで来た。
……そういえば私、伊之助君の子分だったんだっけ…すっかり忘れてた
善逸と炭治郎君と伊之助君と私。4人で杏寿郎さんの機能回復訓練を手伝ったことが、遠い昔のことのように思えた。
あの時の私が今の私…杏寿郎さんの子を宿し、妻になる未来が待っている事を知れば、天地がひっくり返る程驚くこと間違いない。
そんな自分を想像し、クスクスと笑っていると
「あぁん?何笑ってんだよ?」
伊之助君は、自分が笑われたと思ったのか、あまり見る機会のない、私よりも遥かに整った顔を歪め、私のそれをじとりと見てきた。
「…っふふ…なんでもないよ。ただね…親分にお祝いしてもらえるなんて、私はなんて幸せな子分なのかなって…そう思っただけ」
私がそう答えると、伊之助君は何やら力の抜けたような顔になり”……ホワホワ”と小声で呟いているようだった。
けれどもその後すぐ、ハッとした表情を見せ、ニヤリとその可愛い顔に似合わない(性格にはとっても合っていそうだが)笑みを浮かべ
「子分の子孫はすなわち俺様の子分も同然!まとめて面倒見てやるから、いつでも俺の家に「炭次郎と禰󠄀豆子ちゃんの家だろ」」うっせぇ黙れ!…とにかく俺のところに来やがれ!」
自信満々な様子でそう言った。