第17章 幸せな音が溢れる世界で
杏寿郎さんと恋柱様は、互いに数回譲り合いをした後、"恋柱様が先にお話しする"という結論に落ち着いたらしく、恋柱様は、私の方にぎゅるんと音が聞こえそうな勢いで、その可愛らしい顔を向けてきた。
「まず初めに…今日は本当におめでとうございます!煉獄さんとの結婚も、お腹の赤ちゃんのことも…私、凄く…すっごく嬉しいわ!」
「ありがとうございます…そんな風に思ってもらえるなんて…私も凄く嬉しいです」
満開の花のような笑みを向けてくれる恋柱様に、私もニコリと微笑み返す。けれどもその直後、恋柱様の表情がフっと悲しげなそれへと変わり
「……恋柱様…?どうかしましたか?」
そんな様子が心配になった私は、首を傾げ恋柱様にそう尋ねた。すると
「それ!それよ!」
恋柱様は、大きくてキラキラした若草色の瞳を見開き、半ば興奮しながらそう言って来た。
……それ?…それって……何?
頭の中に大きな疑問符が現れ、傾げていた首を、更に傾げていると
「どうしてしのぶちゃんは”しのぶ”なんて親し気な呼び方なのに、私は”恋柱様”なんて他人行儀な呼び方なの!?しのぶちゃんだけズルいわ!私の事も名前で呼んでちょうだい!」
恋柱様は、息を荒くしながらそう言った。
私はまさかそんなことを言われるとは思っておらず
「…へ?」
と、間抜けな声を出してしまった。
その直後
「そうだ!俺も鈴音と胡蝶がそこまで親し気に話している姿を初めて目にした!君たちはいつの間にそのように仲を深めたのか!?俺は君からそんな話を少したりとも聞いてない!」
杏寿郎さんが、恋柱様に負けず劣らず興奮した様子で言った。
そんな杏寿郎さんの言動に、助けを求めるようにしのぶへと視線を向けると、しのぶも私に視線を寄越したところだったようで、パチリと互いの目が合った。
しのぶと私、2人一緒に苦笑いを浮かべていると、杏寿郎さんはそれも不満だったようで、”ほら見ろそういうところだ!”と訳の分からないことを言いながら、私の顔をじぃっと見ているようだった。