第17章 幸せな音が溢れる世界で
私はしのぶに向けていた視線を隣にいる杏寿郎さんへと移し
「…しのぶとは、まぁ色々あってお互いに胸の内を明かせるようになったんです。でもその理由は、私だけじゃなくて、しのぶの個人的な話をしなくちゃならないのでお話しすることは出来ません。…というか杏寿郎さん!しのぶにまで嫉妬するのはやめてください!同性のお友達ですよ!?」
キッと睨みつけた。
すると杏寿郎さんは
「鈴音のことを慕ってくれる友がいることは俺としても嬉しい!だが以前から君は、俺よりも宇髄の奥方たち…同性の友人を頼る気があるだろう!?ようやく彼女達を羨ましいと思うことがなくなったというのに、今度は胡蝶ときた!」
と、訳のわからないことを言って来た。
……この人は…本当に相変わらずなんだから…
私は、”呆れてものも言えない”という言葉は今まさにこの時に使うべき言葉だ…なんてことを思いながら、ただただ曖昧な笑みを浮かべていた。
すると
「安心してください煉獄さん」
しのぶの穏やかな声が聞こえ、杏寿郎さん、恋柱様、そして私の視線がしのぶへと集まった。
「鈴音にとっての一番は、未来永劫煉獄さんだけです。唯一それに匹敵する存在になれるのは、鈴音のお腹にいるその子だけ。無用な心配をしている暇があるのなら、その子が生まれるまでの間、鈴音のことを存分に独り占めしておいた方がいいと思いますよ?」
楽し気に、そして揶揄うような口調でしのぶがそう言うと
「………」
杏寿郎さんは無言で私の下腹部を凝視した。そしてその後、色打掛越しに私の丸い腹を、優しい手つきで撫で
「それもそうだ!それに、もし万が一鈴音がよそ見をするようなことがあろうと、また俺に振り向かせればいいだけのこと」
優しく隻眼を細めそう言った。
「…その言い方だと、まるで私が不貞でも働こうとしてるように聞こえるじゃないですか!変な言い方をするのはやめてください!」
「わはは!」
「”わはは”じゃありません!」
そんなやり取りを杏寿郎さんと交わしていると
「……夫婦になるって…やっぱりとっても素敵!私も早く伊黒さんと……」
桃色に染まった頬を自身の両手で包んだ恋柱様が、風柱様と何かを話している蛇柱様の方をチラリと見遣った。