第17章 幸せな音が溢れる世界で
げんなりを越え、酷く疲れたような顔をした風柱様は
「……赤ん坊も産まれんだし…ほどほどになァ」
杏寿郎さんにそう言うと、杏寿郎さんへと向けていた視線を、真っ直ぐと私の方へと寄越してきた。そしてその鋭い三白眼で、私の顔をじっと見る。
そんな視線に
……やっぱり…私のこと…怒ってるのかな…
そんな考えがフッと心の奥底から顔を出してきた。
秘薬の稽古の際、風柱様には1番お世話になった。色々と質問を投げかける私に面倒くさそうにしながらも、なんだかんだできちんと答えてくれ、見取り稽古もたくさんさせてもらった。
そうさせてもらったのにも関わらず、お腹の子のためとは言えど、私はあの戦いに参加しなかった。
「…っ…あの…風柱様…!」
声を上擦らせながらその名を呼ぶと
「…なんだァ?」
風柱は、僅かに面倒臭そうにも見える表情を浮かべた。
そんな風柱様の様子に、背筋がサーッと冷たくなる。杏寿郎さんは、そんな私の様子に気が付いたのか
「…どうかしたか?」
と言いながら、私の顔を覗き込んできた。
私はその杏寿郎さんの問いに答えないまま、風柱様の三白眼を恐る恐る見つめ
「…っ…秘薬の稽古であんなにも色々教えてくださったと言うのに…戦うことが出来ず申し訳ありませんでした…!」
頭を下げようとした。
けれども下げようとした頭を
パシッ
風柱様は、その手で受け止めた。
私はまさかそんな事をされるとは思っておらず
「………」
額を受け止められた状態のまま、ピシッと固まってしまう。
風柱様はそのままグッと私の顔を起き上がらせると
「何を謝ってやがんだァ?俺ァ別に、お前が戦わなかった事をどうこう思っちゃいねェよ」
先程杏寿郎さんに向けていた呆れた表情よりも、穏やかさを含んだそれを浮かべ、そう言った。