第17章 幸せな音が溢れる世界で
けれども杏寿郎さんは喋るのをやめるつもりはないらしく
「鈴音の身体の事もあり、こうした報告の場を設けるつもりはなかったのだが、耀哉様とあまね様…お2人が俺たちの為にと仕立ててくれた衣装に袖を通し、皆の前で夫婦となった報告が出来ることを心より嬉しく思っている!そして俺は、俺の父上のように、妻である鈴音を心から愛し、素晴らしい父となる事を皆の前で誓おう!」
どこを見ているのかはいまいちわからないが、斜め上の方を見ながらそう言った。
そんな杏寿郎さんの言葉に
「…っ…!」
輝利哉様くいな様かなた様の丁度対面に当たるところ座っていた槇寿郎さんは、酷く戸惑ったような表情を見せた後、その大きな右手のひらで両目を覆った。
隣に座っている千寿郎君は、そんな槇寿郎さんの背中に手を添え、いつも以上に穏やかな笑みを浮かべている。
隣にいる杏寿郎さんの様子をチラリと盗み見ると、その視線は槇寿郎さんと千寿郎君の方に向けられており、やはり杏寿郎さんなりに思う事があるのか、僅かに目が潤んでいるようにも見えた。
……杏寿郎さん…
私がそんな杏寿郎さんの背中にスッと手を伸ばすと、槇寿郎さんと千寿郎君へと向けられていた視線が私の方へと向けられた。
杏寿郎さんの表情をじっと探るように見ていると、杏寿郎さんは
「…大丈夫だ」
と、僅かに口角を上げ、私にだけ聞こえるような声量でそう言った。
「……はい」
私もそんな杏寿郎さんに微笑み返す。
杏寿郎さんは私へと向けていた視線を再び正面へと向けると
「話が長くなってしまいすまない!俺の話は以上だ!そして、正式な祝言であれば、他にもきちんとやらねばならぬ事はあるのだが、今日の席ではそれはしない!ただただ皆で美味い食事や酒を楽しもう!」
右手で握り拳を作り、まるでこれから合同任務にでも行くのだろうか…と思ってしまうような声色でそう言った。