第17章 幸せな音が溢れる世界で
視線を感じ、床へと向けていた視線を上げると、心配気に両眉の端を下げながら私の顔を覗き込む杏寿郎さんの右目と視線が合った。
「大丈夫か?」
私はその問いに対し
スウゥゥゥ
ハァァァァ
と深呼吸をした後
「……はい」
ゆっくり頷きながら答えた。
杏寿郎さんはそんな私の様子を、愛おし気に隻眼を細めながら見つめ、額を指の腹で優しく撫でてくれた。
それから私の手を優しく引っ張り、止めていた足を再び動かし始めると、大広間の出入り口として使われている襖の前で止まった。
「待たせてすまない!」
大きな声でそう言いながら、襖を開けると
「「「「「………」」」」」
一瞬広間に沈黙が流れた。けれどもその後すぐ
「…かわいいわぁ」
「鈴音ちゃんすっごく綺麗です!」
「素敵ですよ」
「派手にいかしてるじゃねぇか!」
「煉獄さんとっても格好いいです!」
恥ずかしくも嬉しい言葉の数々に"あ…ありがとう"と口ごもりながら返事をし、床の間の前に置かれている金屏風を目指し(あんなの準備してあるなんて聞いてない)杏寿郎さんと共に歩いていく。
杏寿郎さんにの手に導かれるように席に着いた私は、本来であれば私の親族が座るべき場所に座ってくれている、輝利哉様、くいな様、そしてかなた様の3人に向け三つ指をつき頭を下げた。
私の隣にいる杏寿郎さんも、私がそうするのと同じように深く頭を下げている。
騒がしかったはずの大広間には再び静けさが訪れており、ここに居合せた皆が私たち5人の動向を見守っているようだった。
そんな静けさの中
………この後は…どうすればいいの…!?
私の心の中は、それに相反するような大騒ぎ状態だった。
私は
”始めに少しばかり挨拶をすることになるが、すべて俺に任せ、鈴音は何も気にせずただ隣にいてくれればいい!”
という杏寿郎さんの言葉を真に受け、言われた通り何も考えて来なければ、実のところきちんとした祝言の流れすら把握していなかった。