第17章 幸せな音が溢れる世界で
杏寿郎さんはそんな女将さんに向け
「鈴音をこんなにも美しくしていただき、ありがとうございます!ご主人にも、改めてよろしくお伝えください!」
そう言いながら、女将さんに負けず劣らず綺麗な所作で頭を下げた。
女将さんはそんな杏寿郎さんに”ありがとうございます。それでは失礼いたします”と言うと、襖を閉じ、去って行ってしまった。
部屋には杏寿郎さんと私の二人きりになり
「………」
「………」
互いに沈黙を貫いたまま、女将さんが閉めた襖をじっと見つめていた。
すると、既に宴会を始めている、今日集まった面々の楽し気な声が、ここまで届いて来た。
”形式的なことは一切せず、耀哉様とあまね様がご準備してくれた衣装を着て、夫婦となった姿をみんなに見てもらえるだけにしたい”
私と杏寿郎さんの2人で話し合い、輝利哉様にそうお伝えさせてもらったのは、杏寿郎さんから祝言の日取りを聞いてからすぐの事だった。
そもそもどしてそんな急に…と思わなかった訳ではないが、皆それぞれ新たな生活、そして旅立ちの時を迎える関係上、その日しか全員集まれなかったそうだ。
だからこそ、余計なことはせず、ただみんなで楽しく飲み食いをし、そのついでに私と杏寿郎さんの姿を見てもらえれば、それで十分だと思った。
……よかった…みんなすごく楽しそう
目を瞑り、みんなの楽し気な声を聴いていると
「鈴音」
杏寿郎さんの穏やかな声が私の名を呼んだ。
私は、みんなの声を聴くのを止め、おろしていた瞼をゆっくりと上げ
「……はい」
杏寿郎さんの端正な顔をじっと見つめながら返事をする。
すると杏寿郎さんは、今度は私の両頬を、その大きな両手のひらで包み込み、じっと私の瞳を覗き込んで来た。
そして
「皆に見せるのが惜しいと思っていしまう程に…今日の鈴音は本当に綺麗だ」
と、どこかうっとりとした表情を浮かべながらそんな事を言って来た。