第17章 幸せな音が溢れる世界で
戻って来た杏寿郎さんを待ち構えていたのは
''お前は何を考えている!?もっと大人の男として、落ち着いて行動しろ!"
怒り心頭の槇寿郎さんと
"鈴音さんを抱いて出掛けるなんて…いくら兄上でも危険すぎですよ?"
懇々と注意の言葉を並べていく千寿郎さんで
"……夫として不甲斐ない"
一言文句を言わないと気が済まないと思っていた私だが、あまりにも小さく、そして大人しくなってしまった杏寿郎さんの姿に
"私は大丈夫ですから…ね?そんなに落ち込まないで?"
文句を言うどころか、逆に励ましてしまったのだった。
私が無事煉獄の姓になったのは
それから3日後のことだった
そして
それから更に4日後
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「出来ましたよ。お腹はきつくありませんか?」
耀哉様、そしてあまね様が、私と杏寿郎さんの婚礼衣装を頼んでくれた呉服屋の女将さんに着付けてもらった私は
……これが…私…?
鏡の前で呆然と立ち尽くしていた。
桐箱に入っていた"こんなに素敵な色打掛が私に似合うのかな?"と気後れしてしまいそうだった婚礼衣装は、髪を結い、濃いめの化粧を施された私には思いのほか似合っていて、自分が自分でないように見え
「………」
幻か何かを見せられているのではないかと思ってしまう程だった。
「…あの煉獄様」
「………」
「お腹の方はいかがでしょう?」
「…っすみません!私…私ですよね!?はい!きつくないです!問題ありません!」
"煉獄様"と呼ばれることに全くと言っていい程慣れていない私は、まさか自分が声を掛けられているとは思っておらず、女将さんを困らせてしまった。
「夫婦になってまだ間もないとおっしゃっていましたものね。慣れないのも仕方がありません」
女将さんは何とも温かな視線を私へと寄越して来ており
「…っ…すみません」
「何を謝る必要があるんでしょう?可愛らしい方ですねぇ」
流石"老舗呉服屋の女将"と感じてしまうような貫禄を感じてしまった。