第17章 幸せな音が溢れる世界で
「…流石に怒ってしまったか?」
俯き黙り込んでしまった私の様子が心配になったのか、杏寿郎さんが心なしか沈んだ声色で尋ねてきた。
私は、ゆっくりと顔を上げ、私の顔を覗き込んで来る杏寿郎さんを見返すと
「…こんなことで怒ったりしません。だって私は、炎柱・煉獄杏寿郎の妻で…それからその血を受け継いだ子の母になる女ですよ?」
と笑って見せた。
杏寿郎さんはそんな私の言葉に、きょとんとした顔になる。けれどもすぐ、その表情を太陽のような明るい笑みに変えると
「流石は俺の妻だ!こんなにも出来た妻を迎えられ、俺は世界一の幸せ者だ!」
半ば叫ぶように言ったのだった。
取り敢えず、話が丸く収まった…ように思えたのだが
"まだそうなる為の手続きが済んでいないだろう。…鈴音さんがお前の強引さに愛想をつかす前に、さっさと手続きをしてくることだな”
なんてことを槇寿郎さんが呟いたもんだから
”わはは!そんなことがあるわけ……”
余裕気に笑っていた杏寿郎さんがふっと真顔に変わり
”よくよく考えてみれば、鈴音には何度も逃げられそうになったことがある。よし今から手続きに行こう”
と、言い始め
”え!?ちょ…降ろしてください!”
”おい!待て杏寿郎!”
驚くほど鮮やかに私を横抱きにした杏寿郎さんに、あっという間に外に連れ出されてしまった。
それから向かった場所(連れ去られたと言った方がもはや適切な気さえした)はもちろん婚姻の手続きをできる施設で、杏寿郎さんはその場で届けに記入をし始めようとしたのだが
"……よもや保証人を書く欄があるとは…完全に失念していた"
残念ながらすぐに提出することは叶わず、草履も履かせてもらえないまま連れてこられた私は、再び杏寿郎さんに横抱きにされ煉獄家へと舞い戻る事になった。