第17章 幸せな音が溢れる世界で
「……私が…ですか…?」
「あぁ」
「……わかりました」
私は、差し出された桐箱を恐る恐る杏寿郎さんの手から受け取ると、卓の上に丁寧に置いた。
それから蓋の左右を両手で包むようにしながら持ち上げ
「…それじゃあ…開けますね」
ゆっくりと開いた。
蓋を開け、視界に飛び込んで来たそれに
「…っ……どうして……?」
そんな言葉と共に、目の奥から熱いものが込み上げて来た。
蓋を開けたその先にあったのは、熨斗目模様の小さなお着物で
「……さながら、妻の実家からのお祝い…と言うことだろうな。随分と気が早いような気もするが、優しいあのお方らしい」
"気が早い"と言いながらも、槇寿郎さんの声は少し震えているようにも聞こえ、それが余計に私の涙を誘った。
……未来が見えるって…本当だったんだ…
"死期が迫っているせいで少しだけ未来が見えるようになった"
その言葉も、あの場を和ませる為の嘘だと思っていた。
けれどもこうなった今、あの言葉は全て真実で、私の腹に杏寿郎さんの子が宿ることも、私と杏寿郎さんが夫婦になることも、耀哉様は全てわかっていたのだと…わかっていたからこそ、杏寿郎さんが秘薬を飲もうとするのを止めてくれたのだと言うことを、今になってようやく理解出来た。
目を見開き、熨斗目模様の着物を見つめながらボロボロと涙を流す私の背中を、杏寿郎さんが優しい手つきで撫でてくれた。
「……本当に、凄いお方だ」
「……っ…はい…」
杏寿郎さんは、最後にポンと私の背中を優しく叩くと、両手を自身の膝の上に戻し、"父上"と言いながらその姿勢を正した。
それから槇寿郎さんの顔を真っ直ぐと見据え
「婚礼の儀は、子が先に出来てしまった事もあり行わないと、父上には伝えておりました。ですがここに来る前、胡蝶や、胡蝶の知り合いの医師に相談したところ、短時間であれば、今の鈴音の健康状態ならば問題ないとの返事をもらえました!お館様から、こんなにも素敵な贈り物をいただけた事もあり、一度しないとは言いましたが、俺は鈴音と祝言を挙げたいと…そう考えています!」
と言った。