第17章 幸せな音が溢れる世界で
……随分と上等そうな箱に見えるけど…なんだろう?
そう疑問に思ったのは槇寿郎さんも同じだったようで
「それはなんだ?」
槇寿郎さんが卓の上の桐箱をじっと見ながら杏寿郎さんに尋ねた。
杏寿郎さんはチラリと私へと視線を寄越した後
「これは、お館様…耀哉様とあまね様が、俺と鈴音の為にとあつらえてくれたものだそうだ」
そう言いながら桐箱の蓋を開けた。
「……あつらえてくれたもの?」
私は正座から膝立ちへと姿勢を変え、桐箱の中を覗き込んだ。
「…っ…これ…」
そこには見たこともないような見事な刺繍が施された色打掛と、紋付き羽織袴が入っていた。
目に飛び込んできた光景に、私は膝立ちの状態のまま固まってしまう。
「輝利哉様の話では、あの戦いが始まる少し前に、耀哉様自ら産屋敷家と馴染みの深い呉服屋に頼んで作らせたものだそうだ」
「…お館様が…自分で…?」
「うむ。可能であれば自らの手で、それが叶わなかった場合、輝利哉様が渡すようにと…生前言われていたとのことだ」
「…っ…うそ…」
最後にお館様…耀哉様とお会いしたあの会議の場で、耀哉様は確かに私と杏寿郎さんの祝言を楽しみにしていると言ってくれていた。
けれどもそれは、戦いたいと望む杏寿郎さんの気持ちを諌めるために発したその場だけの言葉だと思っていた。
……まさか本当に楽しみに思ってくれていたなんて…
楽しみに思っていてくれていた事だけでなく、婚礼の為の衣装まであつらえてくれていたとは…私は、夢にも思っていなかった。
杏寿郎さんは、驚きのあまり口を手で覆いながら固まっている私に視線をよこし
「それだけじゃない」
と、言いながら私の背中に左手を添えた。
それから、今現在卓の上にのっている色打掛と紋付き羽織袴が入っている桐箱と比べると、かなり小振りなそれを何処からともなく取り出した。
そしてそれを
「開けてみなさい」
と言いながら、私へと差し出してきた。