第17章 幸せな音が溢れる世界で
「……まぁあの杏寿郎さんが、お米を炊けるようになっただけでも大きな成長ですね」
「わはは!そうだろう?」
私と杏寿郎さんはそんな会話を交わしながら廊下を進み、私は杏寿郎さんの部屋、杏寿郎さんは槇寿郎さんの部屋へと行く為一旦別れた。
……よしと…これで全部終わりかな?
グルリと部屋を見まわし、忘れ物が無いかの最終確認をするも、そもそも着替え位しか私の荷物はなかったので、なんの心配もなさそうだ。
気を違うことも少なくはなかったが、それ以上に助けてもらえる事が多く…いやむしろ多すぎて、このままここにいたら怠け者になってしまうんじゃ無いかと心配になる程だった。
ご飯の準備をしようとすれば
"僕がやりますので!鈴音さんはゆっくりしていてください"
と、何処からともなく現れた千寿郎君が1人でパパパと作り始めてしまい、千寿郎君が学校で不在の時しか私の出番は来なかった。
洗濯物を干そうとすれば
'重いでしょう?私がやるので鈴音さんは休んでいてください"
と、これまた何処からともなく現れた槇寿郎さんに洗濯物を奪われてしまい、私は私の下着類しか洗うことを許されなかった。
掃除をしようとしても同じだ。雑巾掛けは無理でも、お腹に負担が掛からない掃き掃除だけでもと思い箒を手にした途端
"掃除ですか?そんなものは私がやりますので気にしないでください"
この人は私の気配でも探ってるのだろうか…と、疑ってしまうほどすぐに現れ、私が掃き掃除を出来た事なんて、片手で数えられる位の回数しかなかった。
しまいには
"自分のことは自分でやるから心配いらない!鈴音はとにかく、その子に何も無いよう大人しく俺の隣にいてくれればいい!"
あれをして欲しい、これをして欲しいと甘えてくるだろうと思っていた杏寿郎さんすら、私に何もさせようとはしてくれなかった。