第17章 幸せな音が溢れる世界で
それから一か月ほど経った頃。
"ただいまもどった!"
私がいる場所まで聞こえてきた杏寿郎さんの元気いっぱいな声に、私は荷物を纏めていた手を止め、小走りで玄関へと向かった。
玄関に着くと、杏寿郎さんはまだ草履を脱いでいるところで、私は急いで杏寿郎さんへと近づき
「おかえりなさい杏寿郎さん」
その背中に声を掛けた。すると杏寿郎さんは
「ただいま鈴音!」
酷く嬉しそうに笑いながら、私の方へと振り返ってくれた。
隊服と炎柱の証である羽織を身に纏い、太陽のような笑みを浮かべている杏寿郎さんは、やはりいつ見ても凛々しく素敵で
……この姿を見られるのも…今日で最後か
そう思うと、今日が終わってしまうのがとても惜しいような気がした。
それでも今日という日…鬼殺隊最後の柱合会議の日を無事迎えられたと言うことは、私たちが今後の人生を平和に生きていけると言うことを示しており、やはり寂しさ以上に嬉しさが優ったことは確かだ。
草履を脱いだ杏寿郎さんは、左腕だけを私の背中に回し
「出迎えてくれるのはとても嬉しい!だが走ったらだめだろう?」
右手を、随分と膨らみ始めた私の下腹部に添えながらそんな風に言ってきた。
「……あの程度で怒られたら、私、炎柱のお邸でなにも出来なくなってしまいますよ?それで困るのは杏寿郎さんでしょ?」
「そんなことはない!俺とてこの家で過ごさせてもらっている間に、千寿郎にたくさんのことを教わった!故になんの心配もあるまい!」
私と杏寿郎さんは、今日炎柱邸に戻る。
鬼殺隊は解散され、鬼殺隊炎柱の邸として支給されていたあの邸は、本来今日の解散をもってお返しするべきものだ。
けれども私が身重であり、"あまり環境を変えるのは良いことではないよ"という輝利哉様のお気遣いの元、これからも住み続けることになったのだ(お家賃を払うと言ったのだが断固として受け取るつもりはないそうだ)。