第17章 幸せな音が溢れる世界で
すると杏寿郎さんは
「そんなことは絶対にない!…だが、もしそんな事があれば、俺は潔く彼女を手放そう!絶対に、何があってもあり得ないがな!」
善逸の目を、これでもかと言うほどじっと見つめ、そう答えた。
「………」
善逸は、杏寿郎さんとしばらく見つめあった後、隣にいる私へと視線を寄越してきた。
その瞳は
"本当に大丈夫?"
と、私に問いかけている気がして
「……大丈夫だよ」
私はにっこりと微笑みを浮かべ、善逸に向けそう答えた。
「………わかった。絶対に…幸せになってね?」
善逸は、私に向けていた顔を再び杏寿郎さんへと戻した。
それから、杏寿郎さんに向け頭を下げると
「姉ちゃんの事、どうかよろしくお願いします!」
善逸にしては珍しく、声を張り上げながらそう言った。
「うむ!任せてくれ!」
そんな2人のやり取りに、涙を堪えることなど出来るはずもなく
「…っ…ありが…と…」
私は、顔を両手で覆い隠しながら泣いた(炭治郎君、それからあの伊之助君も、グスグスと鼻を啜りながら泣いていた)。
「ただいま戻りました!」
「うるさいぞ杏寿郎!」
善逸との話を終え杏寿郎さんが療養させてもらっている部屋に戻った時には、しのぶの説明も退院の準備も全て終わっており、いつでも出れる状態になっていた。
流石に松葉杖を使っている杏寿郎さんと歩いて煉獄家に帰れるはずもなく、車を呼び、4人仲良く(私は一緒に帰るつもりはなかったのに)煉獄家へと帰ることになった。
杏寿郎さんは久方ぶりの実家暮らしであること、そしてそこに私がいる事がとても嬉しかったようで、家の前に車が着いてからかなり浮き足立った様子だった。
杏寿郎さん、槇寿郎さん、それから千寿郎君が玄関に入ったのを確認した私は
「…あの」
と、3人の背中に向け声をかけた。