第17章 幸せな音が溢れる世界で
杏寿郎さんは私が抱き込んでいる善逸の頭にその大きな手のひらを置くと
「鈴音から聞いた。君は鈴音の為に1人で上弦と戦い、鈴音が無理をしないよう色々としてくれたそうだな。夫として、腹の子の父親として、心から礼を言いたい。ありがとう!」
そう言いながら、善逸の頭を優しく撫でた。
すると善逸は
「…っべ…別に、男にそんな風に褒められたって何にも嬉しくないし!それにそれに、さっきも言ったけど、鈴音姉ちゃんの為に頑張るのなんて、俺からすれば当たり前の事だから!」
そんなことを言いながら私の腕から抜け出すと、クネクネと身体を動かしながら締まりのない笑みを浮かべてみせた。
そんな善逸に
「我妻少年!」
杏寿郎さんは、善逸を撫でる為に僅かに丸めていた背中をすっと伸ばし、善逸の目を真正面からじっと見据えた。
善逸もそれに釣られるようにだらしなく緩まってた表情をキリリと引き締め、佇まいを正す。
「君の大事な姉上を、俺の妻として迎えたいと思っている。俺はそれを、彼女の大切な家族である君に認めてもらいたい!」
少しも予期していなかった杏寿郎さんのそんな言葉に
「…っ…!」
私は思わず息を呑んだ。
「……姉ちゃんのこと…絶対に幸せにするって約束してくれる?」
善逸は、焦茶色の瞳でじっと杏寿郎さんを見つめながらそう問いかけた。
「もちろんだ!彼女と腹の子…ふたりとも、俺の人生の全てをかけて幸せにすると…今ここで誓う!」
「絶対?何があっても?」
「もちろんだとも!俺は絶対に嘘はつかない!」
"嘘はつかない"
そんな杏寿郎さんの言葉に
…私…散々嘘つかれてきたんですけど
なんてことを思いながらも、杏寿郎さんの気持ちが、そして善逸の気持ちが嬉しくて、瞳の奥から涙が込み上げて来た。
善逸は、しばらく黙ったまま杏寿郎さんの表情を探るように見つめた後
「………絶対だからね?もし約束破ったら、俺が即姉ちゃんを連れ戻しに行くから」
と、厳しい声色で言った。