第17章 幸せな音が溢れる世界で
そんなやり取りを終えた私…と、どうしてもついてくると聞かなかった杏寿郎さんは(退院の準備は槇寿郎さんと千寿郎君が進めてくれている)、先ほどまでいた個室から少し離れた部屋の前に来ていた。
扉の前に立ち
コンコン
と、扉を2度叩くと
"どうぞ入って下さい!"
この部屋を使っている人物の1人である炭治郎君の返事が聞こえてきた。
ドアノブに手を掛けガチャリとそれを回すと
「鈴音さん!元気そうですよかったです」
と、ベッドから身体を起こした炭治郎君に声を掛けられる。
「うん。お陰様で元気だよ。炭治郎君も、想像してたよりもずっと元気そうでよかった」
「はい!しのぶさんや蝶屋敷のみんなのお陰で、何不自由なく過ごせています!」
「…禰󠄀豆子ちゃんは?今はいないの?」
「禰󠄀豆子は今、ちょっと買い物に出ています」
炭治郎君の怪我の具合は、隊士の中でも一二を争う重症さだと聞いていたため心配していたが、実際にその姿を目にすると、思っていたよりも元気そうでとても安心した。けれども、せっかく会えると思っていた人間に戻った禰󠄀豆子ちゃんに会えず、少しだけガッカリもした。
……鬼の時も可愛かったけど…人間に戻った禰󠄀豆子ちゃん…きっとすごく可愛いんだろうな
そんなことを考えていた私だが、私がこの部屋に来た目的は、炭治郎君の様子を見るためでも、人間に戻った禰󠄀豆子ちゃんに会うためでもない。
「猫女にぎょろぎょろ目ん玉!お前達、番いそろって何しに来た!?その手に持ってるもんはなんだ!?食い物か!?」
「そうだよ。4人で、仲良く食べて」
「っしゃあ!」
伊之助君の"番"と言う言葉に、私の隣にいる杏寿郎さんは心なしか嬉しそうな表情をしているが、"私の話が済むまで大人しくしている"という約束を守り、その口を懸命に閉じてくれているようだった。
伊之助君は私の手からお饅頭を奪うように取っていくと、それを手に、ほくほくとベッドへと戻って行った。
これも、私がこの部屋に来た目的ではない。