第17章 幸せな音が溢れる世界で
杏寿郎さんのまさかの発言に
「はぁ!?」
槇寿郎さんの前であるにも関わらずはしたない声を出してしまった私は、急いで自分の口を塞いだ。
杏寿郎さんの発言を聞いた槇寿郎さんは
はぁぁぁあ
と大きなため息を吐くと、杏寿郎さんと千寿郎君の方へと向けていた身体を私の方へと向けてきた。
そして
「鈴音さん」
と、私の名前を呼んだ。
私は口を覆っていた手を離し、ピンと姿勢を正すと
「…はい」
と、返事をした。
「うちの愚息が…本当にすみませんでした」
私は、私に向け頭を下げてくる槇寿郎さんに慌てて近づき
「っ頭を上げてください!悪いのは杏寿郎さんだけじゃなくて…あの時は私が…」
事の顛末を伝えようとしたのだが
「いいえ。どのような事情があろうと、親として、杏寿郎のしでかしたことを許すことは出来ません」
槇寿郎さんは、顔を床へと向けながら言葉を止める様子はない。
けれども”…しかし”と言いながら頭を上げると、私の顔をじっと見てきた。
そして
「同じ男として…愛する人を自分のものにしたい…ずっとそばにいて欲しいと思う気持ちは……恥ずかしながら理解できます。ですから鈴音さん。こんな息子ではありますが…どうかよろしくお願いします」
厳しい顔から一転、息子を慈しむ”父”の表情へと変わった。
「…っはい!こちらこそ…どうぞよろしくお願いします!」
私は、先ほど槇寿郎さんがそうしてくれたように、槇寿郎さんに向け深く頭を下げたのだった。
槇寿郎さんは私と杏寿郎さんの事は認めてくれたものの、婚姻の手続きは、けじめをつける意味でも自分たちでするようにと言ってきた。
そんな槇寿郎さんこ言葉に、杏寿郎さんは少し不満そうな顔をしていたものの、私が
"もう何があっても杏寿郎さんのそばを離れたりしませんから…慌てなくても大丈夫ですよ"
と言うと、安心したような表情を見せ納得してくれた。