第17章 幸せな音が溢れる世界で
しのぶは、そんな千寿郎君にニコリと微笑み掛けると
「もちろんわかっています。千寿郎君なりに考え、それが自分にとって、それから煉獄家にとって最善だとご判断されたんですよね?」
そう問いかけた。
その問いに対し千寿郎君がゆっくりとうなずくと、しのぶは、その笑みを更に深め
「ご存じの通り、鬼との戦いは終わりました。これからはもっと、あなた自身の人生について考える時です」
槇寿郎さんに向け話していた時のそれとはまったく異なる優しさ満点の声色で、千寿郎君を諭すようにそう言った。
すると
「胡蝶の言う通りだ」
杏寿郎さんの、凛とした声が私の耳に届いてきた。杏寿郎さんは松葉杖を使い千寿郎君へとゆっくり近づいて行くと、目の前で立ち止まり、杏寿郎さんを見上げる千寿郎君を、穏やかな表情を浮かべ見下ろした。
「千寿郎」
杏寿郎さんの呼びかけに
「…はい」
千寿郎君は、杏寿郎さんの顔をしっかりと見据え返事をする。
「俺が柱としてやってこれたのは、千寿郎があの家をしっかりと守っていてくれたからだ。千寿郎がいてくれたから、俺はどんな時でも前を向いていられたんだ!」
「…っ…いえ…俺は…そんな…!」
千寿郎君は、杏寿郎さんに改めて褒められたのがとても嬉しかったのか、目に涙を浮かべているようにも見えた。
「謙遜する必要はない!千寿郎は俺や父上にはないたくさんの才を持っている!これからは、家のことは俺と父上に任せ、思う存分勉学に励むといい!」
杏寿郎さんがワシワシと千寿郎君の頭を撫でていると
「…杏寿郎の言う通りだ。お前には…いや、お前らには、たくさんの苦労をかけてしまった」
槇寿郎さんも、そんな2人へと近づいて行き
「これからは、家のことなど気にせず、お前らの好きに生きろ。どんな道を選んだとしても、俺はお前らのことを応援する」
初めて目にする、穏やかな表情を浮かべながらそう言っていた。
そんな槇寿郎さんの言葉を耳にした杏寿郎さんは、その顔に満面の笑みを浮かべながら槇寿郎さんを見ると
「ありがとうございます父上!では手始めに、明日、俺と鈴音の婚姻の届を出してきてください!」
そんなお願いをし始めた。