第17章 幸せな音が溢れる世界で
「さてさて。お父さんの方の煉獄さんは、これからここの子達が、息子さんに関する食事や入浴、その他諸々の注意点をお教えしますので、しっかりと覚えて帰っていただかないといけません」
しのぶにそう言われた槇寿郎さんは
「……なぜ俺がそんな事を」
と小声で呟いた。
すると
「……はい?」
静かな筈のしのぶの声が部屋に木霊し、そのとんでもない迫力に
「…っ!」
槇寿郎さんの肩が、僅かに上下した。
もちろん私も
……しのぶ……怖すぎ!!!
そんなしのぶの様子に、恐怖の感情を抱かずにいられるはずがない。
しのぶは、”よぉく、考えてください”…と言いながら、ゆっくりとした足取りで私へと近づいてくる。それから私の両肩にそのちいさな両手のひらをのせ、身体の向きが槇寿郎さんの正面に向くようにと変えられた。
「鈴音は息子さんの伴侶になる予定の「予定ではない!既に決定事項だ!」……だそうですが、ご存じの通り、お腹に大切な命を宿らせています。鈴音が子を宿したと思われる時期から考えると、お腹の子の発育が安定するまで、もうしばらく時間を有します。ですので、その時が来るまでは、可能な限り心と身体に負担を掛けないようにしなければなりません」
そう言い終えたしのぶは、今度は私の後方にいる千寿郎君の方へと近づいて行く。それから私にそうしたのと同じように、千寿郎君の肩にその手を置き、身体の向きを変えた。
「千寿郎君は、お家の事はなんでも一人でこなせる広い視野と、ぼろぼろになった書物を復元できる優秀な頭脳をお持ちだと聞いています。そんな才能と未来に溢れる人材に、より多くの学びの機会を与えることは、この子の人生において最重要事項ですよね?家に篭って、聞かん坊のお世話をしている場合ではありません」
千寿郎君は、そんなしのぶの言葉に
「っいいえ!俺は好き好んでそうしていただけで…決して、父上や兄上にそうするように言われていたわけではありません!」
と、慌てた様子で言った。